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連載小説

どこから来たの=大門千夏=(72)

 残されたコレクション  長らく雨の降らない日が続き、埃っぽく、喉はイガイガする、眼は赤くなる、こんな四月のある日、派手な服を着た、どこか落ち着きのないブラジル人女性が私の骨董店に入ってきた。  母親が二ヵ月前に亡くなったので品物を整理したい事、生前、コーヒーカップを何年もかけてコレクションしていたので、ものすごい数があるから買 ...

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どこから来たの=大門千夏=(71)

 急に胸の奥から申し訳ない気持ちが湧き起こってきた。ごめんなさいねと夫の写真に素直に謝った。夫にだけでは物足らず、神様ごめんなさい…思わず口に出して謝った。信心のないはずの私、神は病気の夫を助けてはくれなかった。役立たずの神は要らないし、居るはずもないと断言していた私が今初めて神に語りかけた。 「ごめんなさい。夫のせいではなく私 ...

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どこから来たの=大門千夏=(70)

 夫が亡くなって二年たった。一人で骨董屋を続けていた。  疲れ果てて旅から帰って来ると必ず何か問題がおこっている。  借家の事、商売の事、持っている土地の事、使用人の事、その上、日本にいる母の事まで、毎回毎回多いときは一〇個くらい問題が重なってやってくる。  あの日、飛行場に出迎えた娘は私の顔を見るや「すぐに決断しなくちゃいけな ...

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どこから来たの=大門千夏=(69)

「あーー夢に見たボンベイ!」と叫ぶとゲッチイは、「新婚旅行にボンベイに行ったのよあの二人…しかしすぐに破たんする。幸せとお金は関係ないわ」 「うう…んん。でもねェ幸せって言うのはやっぱり、お金があるってのは幸せってことだよね、それでも文句があるんだからねェ、不思議だよねェ」 「貧乏でも一生連れ添える人が側にいるのが一番いいのよ」 ...

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どこから来たの=大門千夏=(68)

 夕方パラチの別荘に着いた。外から見るとごく平凡な背の高いコンクリート塀があって、その真中に大きなペンキのまだらにはげおちた厚手の木製の二枚扉がある。青みがかったネズミ色の扉。しかしこのまだら加減がパラチという古い町によく調和しているから不思議だ。いかにも昔からの由緒ある家族が住んでいるといった風情である。  ベルを押しても誰も ...

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どこから来たの=大門千夏=(67)

「何を言ってるのよ。そんなこと言っても前世のカルマもあるからね。そう簡単にはゆかない」と友人は恐ろしいことを言うが、今の私にとっては医療保険に入っていないのだから、頼りになるのはこのイシュタル様だけなのである。 「お願いですよ。ことが起こったらすぐに一直線に天空に連れてってくださいよ。すみませんがお願いします。お忘れなく」と念に ...

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どこから来たの=大門千夏=(66)

 しかし不思議とこの高さ二八㎝の泥人形は、どこに置いても見劣りがしないのだ。どんな物のそばにおいてもしっかり自己主張している。  おかしなもので物というものには「位」があって、いい加減なものは本物のそばに置くととたんに見劣りがしてくるし、見あきてくる。しかし本物はどこに並べおいても風格がある。  これはやっぱり本ものに違いない… ...

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どこから来たの=大門千夏=(65)

 しかし、本当はなくてよかった。あったら今頃はどこに隠そうか、どこに並べようか、私が死んだら誰に残そうか、と頭を痛めるに違いない―――と虚勢を張ってはいるが、本当は愚痴半分、くやしさ半分から抜けきれないでいる。  神隠しにあってなくなった首飾りの事を友人に話したら、いたく同情してくださって、インドネシアのバリ島から古いとんぼ玉の ...

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どこから来たの=大門千夏=(64)

 欲張り男! ケチ! ブオトコ! いじわる!…自分の財力のなさは棚に上げ、ありとあらゆる雑言を並べ、はけ口とする。悔しくて、腹が立って、何時までも物欲ならず首飾慾にとらわれて頭から離れない。いろいろな発掘品の首飾りが五〇本並べられている様を想像して涙が出るほど悔しい思いをした…いや本当は今もしているのだ。  自分には発掘品の「首 ...

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どこから来たの=大門千夏=(63)

 この気の遠くなるような仕事をしていた人が、一〇〇〇年前に生きていたと思うと私の心臓はどきどきする。今の私と同じように喜び、悲しみ、驚き、希望、絶望…色々な感情を持って生きていたのだ。標高三五〇〇m~四二〇〇mもある酸素の薄い高地に日干し煉瓦や竹材で住居を作り、ジャガイモやトウモロコシを主食にし、時にはチチャという酒を飲んで憂さ ...

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