ホーム | 文芸 | 連載小説 (ページ 21)

連載小説

中島宏著『クリスト・レイ』第48話

「ところでね、アヤ、あなたは将来、どういう道に進もうと考えていますか。さっきの話ではどうも修道女にはならないようだけど、でも結局、さっきの『隠れキリシタン』に繋がる仕事をすることになっていくのだろうね。それは、日本からの延長の仕事でもあるし、やはり、そこから大きく逸れて行くということにはならないでしょう」 「はっきり言ってね、マ ...

続きを読む »

中島宏著『クリスト・レイ』第47話

「あら、マルコスはいつもはっきりと自分の意見を言うわりには、変なところで遠慮するのね。先生という存在を、私から消してしまえばいいのじゃないかしら。そこに残るものは、ただの、大したことのない普通の女です」 「いや、そこが簡単なようで、難しいところですね。だって、今の僕には、アヤがただの普通の女性には見えないというところに大きな問題 ...

続きを読む »

中島宏著『クリスト・レイ』第46話

 あら、これはちょっと、説明が長すぎたかしら。とにかく、そういう事情で、こちらで私は日本語学校の先生をしてますけど、それは別に、教会から命令を受けてやっているのではないの。ちゃんと、それなりの報酬を頂いて働いていますよ。あ、でもそんなこと、あなたに報告する必要はなかったわね」 「アハハハ、、、その辺りは、アヤの正直さがまともに出 ...

続きを読む »

中島宏著『クリスト・レイ』第45話

「ハハハ、、、それではまるで私がスパイか何かのようね。いいえ、残念ながらそのような者ではありません。隠れキリシタンについて詳しいのは、別に私だけでなく、私が生まれ育った今村では誰もが知っていることで、まあ、常識の範囲といってもいいでしょうね。  そういう物語は、小さな時からいつも聞かされて来たから、自然に頭に入っているということ ...

続きを読む »

中島宏著『クリスト・レイ』第44話

 だから、このプロミッソンのゴンザーガ地区には、いつの間にかそういう人たちが増えていって、今では八百人ほどの日本人や日系人がここに住んでいるわ。  もちろん、それは福岡県だけでなく、熊本県とか長崎県からも、隠れキリシタンの人たちが集まって来ているから、すべてが今村からの人たちではないけど、要するにそういう人たちが集まることによっ ...

続きを読む »

中島宏著『クリスト・レイ』第43話

 そういうものが芯のところにあるから、このクリスト・レイ教会を造った人たちには強い意志が働いていて、団結しているところがあるわけですね。同じ移民でも、ここの人たちはどこか違うということが、だんだん分かってきました。  ところでね、アヤ、僕にはもう一つ不思議に思えることがあるのだけど、あの二人の宣教師ね、エミリオ神父と、アゴスチー ...

続きを読む »

中島宏著『クリスト・レイ』第42話

「まったくないとは言わないけど、でも、このブラジルへ移民して来た直接的な動機は他の人たちと一緒で、日本での生活がとても貧しく、何とかそこから抜け出してもっと可能性のある世界に賭けてみようという、そういう希望が強かったということでしょうね」 「つまり、現状を打ち破って新しい世界に挑戦しようというような希望ということですね。それは、 ...

続きを読む »

中島宏著『クリスト・レイ』第41話

 「カクレキリシタンというのは、隠れキリシタンというふうに書きますが、それは、表面からは隠れたキリスト教徒のことをいいます。あれだけの厳しい弾圧を受けた当時のキリスト教徒たちは、潜伏して、つまり隠れるようにして、密かにキリスト教を信じ続けたということなの。少しでもキリスト教のことを口にすれば、即座に捕らえられて牢獄に入れられ、厳 ...

続きを読む »

中島宏著『クリスト・レイ』第40話

「その辺りから、キリスト教徒に対する弾圧は本格的なものになっていったのね。徳川幕府にとっては、そこまで徹底した態度で抵抗する信者たちに、薄気味の悪さと、理解できないような不気味さを感じ取ったのでしょうね。幕府の態度もそれ以後、ますます頑なになり、迫害の度合いも、考えられないほど熾烈になっていったということなの。  でも、その後も ...

続きを読む »

中島宏著『クリスト・レイ』第39話

 でも、そんなことだったら、ヨーロッパから来た移民の人たちが、同じようにそれぞれの教会を建てているのだから、それは別に特別のことでもないだろうと言われそうだけど、正直に言って微妙なところで、やはりそこには違いというものがあると私は信じたいわ。  ヨーロッパからの移民の人たちの場合は、そのほとんどが大昔からキリスト教というものに基 ...

続きを読む »