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連載小説

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(219)

 収入はあるのだが、店の家賃やその他の経費が高かったのだ。いつも経理にうとい正輝だが、今回は採算が合わないと、正しい判断を下したのだ。たとえ収入が減っても、今の仕事より経費がずっと安い仕事に商売変えをしなくてはならない。  家族にとって黒字になるのが望ましい。少なくとも経費を差し引いても、家族の生活費が残るような仕事がいい。朝市 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(218)

 庭は家族以外の者にも使われているので、房子は麻袋を縫い合わせ庭に面した入り口や小さな窓のカーテンにし、外からみえないようにした。しかたのない対策だが、正輝は小屋が気に入らなかった。できあがった小屋は全く酷いものだった。もし、外を通る人がみたら、貧民窟の掘っ立て小屋のように思っただろう。こんな小屋はサントアンドレでもあまりみかけ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(217)

 ルビーニョが外に出るなり、ドアを荒っぽく閉め、なかから鍵をかけた。ところが、彼の赤いコートがドアに挟まってしまった。懸命に引っぱったが抜けない。 「ぼくのドレス、ぼくのドレス」と叫びながら、ドアを開けてくれと懇願した。 「はっ、はっ、はっ。おまえは女の子のドレスをきるのか? コートという言葉もちゃんと言えないくせに」とドアも開 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(216)

 正輝はしだいに料理役をかってでるようになった。スープ作りには特異な才能を発揮し家族に喜ばれたのだ。豚の頭とケールを使ったスープで、アララクァーラ時代、豚を殺したときだけに作っていた料理だ。サントアンドレでは安く簡単に手に入る。火曜日、仕事を抜け出して、タヴァーレさんのパン屋に行きピンガを引っかける。洗濯場にはいつもピンガの瓶を ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(215)

 そのために経費はかかったが、正輝はお客を増やすには宣伝する以外に方法がないと思っていた。朝市は、顧客が買うつもりでくる場所だが、商店街は違う。だから、宣伝をする必要があるのだ。ポルトガル語でお客をフレゲーザというのだが、房子はフレゲージャと発音した。朝市のフレゲージャは品物のよしあしと値段をみて判断する。けれども、洗濯店の前を ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(214)

 何日か後、ミーチは別の場所を歩いていたとき、助けてくれた薬剤師にばったり会った。前回の場所とはまったく違ったところだ。薬剤師は仕事でそこにきていたか、だれかと待ち合わせをしちたのか分からないが、こんな遠いところで何をしているのか、と不審に思い訊ねた。  ミーチは「町を知るために歩き回っているのです」と答えた。  その日はミーチ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(213)

 一人はいかにも金があることを見せつけるように素敵な服を着、もう一方は顔が卵型のどんぐり目で大きな口のどうみても可愛いとはいえない子だったからだ。その子が相手を「アナ」と呼んでいるのをきいて、すかさず二人を指差し、兄たちにいった。 「すてきなアナさんとがま蛙」  そうよばれた二人は、いさかいをさけるために自分たちには関係ないよう ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(212)

 二人は、七面鳥は正月(沖縄の言葉でソグワチー)のメイン料理だということは知っていて、ほかの家族同様、その日を心待ちしていた。二人を落ち着かせるために 「丸焼きにする。もう、タヴァーレスさんのパン屋で焼いてもらうことにしてある。七面鳥の肉を柔らかくするには殺す前日にピンガを飲ませる。また、ピンガを飲ませると、血をぬくのに首を絞め ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(211)

 ときには冒険心をおこし、塀と車道の間の歩道まで出て行った。庭には砕きとうもろこしを食べる七面鳥がいて、子どものちょっかいに応える。二人は「ピイルウ(七面鳥のこと、ペルーという)」と声をそろえて呼ぶと、「グル、グル、グル」と気持ちわるい赤い何重もの顎肉を震わせながら返事をした。何回も何回もそれをくり返したが、飽きるのは七面鳥では ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(210)

 けれども正輝はセナドール・フラッケル街の住民の探索をつづけた。オリエンテ洗濯店から少し行ったところに、セイミツの妹、マリキニァの美容院があった。店の名は「サントアンドレ美容院」という。そこには妹のアウロウラや義姉も働いていた。正輝はタバチンガ時代から稲嶺盛一の娘たちを知っている。パウケイマド農場を離れてすでに15年もたち、みん ...

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