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連載小説

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(28)

 そこに連れて行き、時計修理見習いで、2人とも住み込みで働かせて貰う事が決まった。もちろん二人の保証人は千年太郎で有った。幸いこの二人は、店主に気に入られ、四年後には店を譲り受け大繁盛。また、その三年後には、義弟の政敏は市議会議員にまで出世して行った。千年太郎を義兄と頼り、何事も相談、義母までが娘婿を信頼した。父親を早く亡くした ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(27)

 「実は近々、もう一か所、種鶏場を新設する事にしたが、岩田さんがどうしても年齢的に自分は無理だと引受けてくれない。そこで岩田さんが、ミランドーポリスで実績のある君に決めて、住宅を用意した。君が来てくれれば、岩田さんも仕事ができる。どうだい、岩田さんは期待している。知らない中じゃないだろう」 これでは否応なし。太郎は目の前がパッと ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(26)

「おいおい誰かは無いだろう」と押し問答の最中、後ろから白いベンタル(上っ張り)を着た技師の中村さんが手を振りながら走って来た。そして、またその後ろから、先の理事長さんが白いベンタル姿で、これまた飛んできた。 これには流石の千年君も驚いた。小河原場長がまだ何か言いたげにしていた。 それを振り切る様に中沢理事長さんが「小河原君、良い ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(25)

 千年は「私が誠心誠意アタックしてみます。笑わないで下さい。これは私が単身、家族に別れ、ブラジルに渡る時から心に誓った信念のひとつです。ですから、私はあの幸子と言う娘が欲しい。一生離れはしません」と一気にぶちまけていた(後に、ご老体が「あの時の千年の剣幕には、魂が籠もっていた」と家族や世間に話し噂さになったとか)。その事は後日話 ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(24)

 そして「今日はおばさんいるかな」と文雄君が家の中を覗いている。すると返事もしないで顔を出した娘がいきなり、「まあ文ちゃん、今日はなにごと?」「ちょっと通りかかったもんで、声を掛けてみた。おばさんは?」「ここだよ。まぁー久し振りじゃないの。文ちゃん。お母さんやお爺ちゃんは元気かい?」と誠に親しみのありそうな会話に、太郎は親しみを ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(23)

 その翌日は日曜日であった。本日は非番になっていたので昨夜の分まで寝ていようと、思っていた矢先、朝早く玄関のチャイムが鳴りだした(注=この時分には新築の場長住宅に入居していた)。 眼をこすりこすり、窓を開けてみると、上野文雄君が「もう九時ですよ。今日はどうしても行って貰わないといけないので迎えに来ました。外で待ってます」という。 ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(22)

 矢野養鶏部長さんから「今後は千年太郎君によろしく頼む」と、一度だけ連絡が来て、その後は業務連絡だけ。後は木村場長着任以前に逆戻り、何とも悠長な時代では有りました。 ところで彼の生まれついての信念は「成せばなる」。そこらが並みの人間ではなかった。たったの一年半で見事「採卵養鶏用」、雛(ヒナ)の生産出荷体制を整えたのであります。サ ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(21)

 その土曜日が来た。午後二時、場長から「千年君、これから木村君とこに行くぞ」と迎いに来た。お断りする理由もなく、木村場長の強(し)いてのお誘いである。木村さんとも大変気の合う人で、一度、大塚氏に逢って置きたかったのは、千年君も同じではなかったか。 「では参りましょう」とジープに乗り込んだ。その頃、ノロエステ奥地はマット・グロッソ ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(20)

 矢野養鶏部長が「千年君どうかね、良いところだろう」と訊いた。「ハイ驚きました。随分広いですね。しかし、これだけ広けりゃ、気持ちが良いですね。でも、ちと気になりましたが、あのマモンは(果物)は切ってもよろしいですか。あれは鶏には外敵だと思いますが」「ほう―、良く気がついたな。さすが千年君だ。今から予防を始めるとは。我々も見込んだ ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(19)

 入ってまずビールを注文。「何かおつまみは」とガルソンが聞く。奥地のフランゴ(若鶏)のから揚げを注文した。昼間の余りにも美味しい味に釣られたのである。でも、出てきたから揚げは、鶏は鶏でも鶏の味が違う。これが当たり前の味なのだ。 グイグイ遣っていたら、ガルソンが遣って来た。「セニョール(貴方)はどこから来たか」と聞く。「サンパウロ ...

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