越境する日本文化 マンガ・アニメ(5)=アメコミはライバル?!=子どもの頃からマンガ家が夢

1月25日(土)

 ブラジルでも毎月のようにオリジナルマンガが出版されているが、三号まで続くものはほとんどない。その中で、エリカ・アワノさんが作画家として参加する月刊コミック『Holy avenger』はすでに四十号を数え、三年以上も続くごく稀な例だ。
 別にいる脚本家が書いた原作をベースに毎月二十ページを助手なしで作画する。「この三年間、ずっと家にこもりっぱなしだったから…。今年四月に連載が終わる予定だから、そのあと一カ月ぐらい休みたいわ」とため息をつく。
 「リンスに住んでるおじいちゃんの家に山のようにマンガが置いてあって、気がついたら読んでました。少女マンガばっかりですけど」。それらのマンガは、彼女が生まれる以前の六〇年代のものだった。
 「子どもの頃からマンガ家になりたかったけど、とっくに諦めてました。だって九〇年代前半まではアメコミ全盛で、日本式コミックを出版してくれるところは皆無だったので」。だから九〇年代初めに通った大学では文学を専攻した。
 「絵の描きかたとか勉強したかったけど貧乏だったから…」。自己流でイラストを書き続け、卒業する頃にはDC期に入り、マンガ・アニメ雑誌がでる時代になっていた。
 そんなとき愛読誌の編集者だったペイショットさんに一通のファンレターを送った。同封された一枚のイラストを見て、彼は「作画の仕事をやってみないか」と誘った。その縁から現在の仕事もまわってきた。「だから、売り込みらしい、売り込みは一度もしたことないんです。天から降ってきたような幸運です」。
 かつて、〃セイヤ前〃期にはアメコミ勢力が圧倒的に強く、マンガはコロニアの中でだけ読まれる存在だった。今現在、日本式のマンガを定期刊行している作画家は三人しかいないが、その全員が日系女性、デニーゼ・アケミ、リジア・メグミ、そして彼女。
 それに対し「アメコミの作画家はマンガのそれよりはるかに多いですが、私の知る限り百%男です。だってスーパーヒーロー物なんて、私たちには興味ないですから」という状況だ。
 今でもアメコミファンからマンガのキャラクターは「目がでかい」「絵が奇妙」などと評される。「アメコミ派と私たちはライバル関係です」。
 夢は、と問うと「マンガ家」という答えが返ってきた。すでにマンガ家ではと問い返すと、ポ語でMangaka(マンガ家)というと、一人で脚本から作画までこなす人のことを示すそう。今の彼女はdesenista(作画家)でしかない。次回作は脚本までやるよう出版社から要請されており、念願のマンガ家への道は目前だ。
 次回作を構想するにあたって壁に直面している。「ブラジルの日常生活を描写してみたいとも思うけど難しい…。マンガが描くのは日本の日常であって、ブラジルでは非日常性だから、現実からの逃避装置として受け容れられる。もしブラジルを描くのなら、文学と同様に多数の読者に受け容れられない可能性があります」とその難しさを語る。
 ブラジル発の日本式マンガ――。産みの苦しみの先に明るい未来あれ!
    (深沢正雪記者)

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