カルナヴァルと日系人(4)=サンバ魂は三世から!?=両親大反対だった大衆音楽研究

2月27日(木)

★奇異な日系人のサンバ★
 日系人で始めて、グルッポ・エスペシャルのパレード公式審査員をしたのは、池田タカシ・アルベルト(二世、五〇)さんだ。「私が良くない点をつけたエスコーラの会長は、TVグローボの取材に答えて〃ジャポネースが審判に入っている!〃と問題発言し、全国中継されたため物議をかもしたことがある」と面白そうに笑う。九八年のサンパウロでのことだ。
 もっともマスコミ自体が日系人のサンバ参加を通常のこととしていない。以前、TVグローボのファンタスチコに出演した時も「ジャポネースなのにサンバを研究している〃おかしな存在〃として自分を扱った」という。
 普通の人なら怒りそうな話だが、文化人類学的考察も含めた民族音楽・大衆音楽学を研究するパウリスタ州立大学(UNESP)教授にかかっては、すべてが興味深い事例として、その膨大な知識の蔵の収まってしまう。
 池田さんは二〇〇〇年からジアリオ・デ・サンパウロ(当時はジアリオ・ポプラウ)が企画する〃トロフェウ・ノッタ1〇〃(十点満点杯)の審査員として紙上で採点を公開している。公式審査とは別に、独自に新聞が賞を与えるもので、同紙の目玉企画だ。もちろん審査員十人中、日系はただ一人。
★日本製ギターが原点★
 サンパウロ市近郊サンベルナルド・ド・カンポ市に生まれた池田さんは、十二、三歳の頃、アルバイトして貯めた金をはたいて、日本からきた若者から日本製ギターを買った。一生懸命ギターを練習し、週末ごとに非日系の友人たちとローダ・デ・サンバ(輪になってサンバを演奏・合唱すること)を楽しんだ。それが音楽学を志す原点だった。
 「僕が音楽学をやりたいといった時、両親は猛烈に反対した――」。日系人もちらほら活躍するオーソドックスなクラシック音楽ならまだしも、民族音楽や大衆音楽を研究したいという池田さんの考え方は、なかなか周囲に理解されなかった。
 「同じ年齢ならこちらの日系人の方が、日本の日本人よりトラディショナルだと感じる。移住という過程の中で、初期に多く見られる生活重視の正統派市民から、遊びや余裕を重んじる異端派市民へと生活スタイルを広げる過程にあるのではないか。ブラジリダーデ(ブラジル人気質)を骨肉化するには、三、四世代かかるのだろう」
 仕方なくガスペル・リバノ大学のコミュニケーション学部に入学するも、民族音楽学をやりたいという志が忘れられず、六カ月で中退し、インディオ音楽を研究するために、アマゾナス州マナウスへ単身乗り込んだ。友人宅に世話になり、働きながら四カ月ほど調査をした。「親は何も手伝ってくれなかった」。でも、その時「俺は音楽を勉強する」と腹を決めた。
 七七年にInstituto Mu-sical de Sao Paulo(サンパウロ音楽院)で芸術教育を卒業し、専門を深めるためにUSPやUNESPでも受講した。現在は大衆音楽研究の分野では第一人者のひとり。「かつて大反対していた親戚も、今では誇りに思ってくれてます」。
 ★サンバの魂★
 いつになったら、日系人がサンバをやっても奇異な目で見られなくなるのか。
 「我々はサンバ・ノ・ペ(サンバのステップ)を学習したものとして上手に踊ることはできるが、サンビスタのように踊ることはできない。何か重要なエッセンスが欠けているように感じる。具体的に説明することは難しいが、サンバのアウマ(魂)のようなもの、ジンガとでも言おうか」
 池田さんはおもむろにパンデイロ(タンバリン)を取り出し、実演を始める。「一見、叩けば音が出る単純な楽器にみえる。例えばこのリズム。楽譜にすると同じになってしまうリズムが、ジンガが入った叩き方と、入っていない叩き方では、こんなに違う。全く別のリズムみたいでしょ。アクセントと独特の間とかに秘密があるようだ。ジンガは楽譜にしずらい性質のもので、独特のノリとでもいうべきものだ」。
 無理を承知で例えれば、演歌のコブシが楽譜に表現できないのに似ているかもしれない。大衆音楽には、それが生まれた〃風土のかおり〃、文化的・風俗的土壌と切り離せない何らかのエッセンス、が含まれているようだ。
 池田さんは続ける。「ブラジルで生きている我々日系人にとって、それを内包化するのは時間の問題だと思う。世代と共に骨肉化していくよ」。
    (深沢正雪記者)

■カルナヴァルと日系人(1)=「ボヘミアンな父でした」=日系初のサンビスタは戦前移民

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■カルナヴァルと日系人(4)=サンバ魂は三世から!?=両親大反対だった大衆音楽研究

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■カルナヴァルと日系人(終)=ヴァイ・ヴァイ=移民90年忍者と芸者とラジオ体操=日本民族文化からブラジル民俗へ

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