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看板のない料理店―小池信也さんー緑さんが厨房引き継ぐ

3月26日(水)

 看板なし、お世辞一切なしの店がある。「立地は悪いが、味はいい」。そんな評判が聞こえてくる。駐在員のご用達とされるここは、ヴィラ・マリアナ区に八年続く茶寮「玉有楽」だ。
 女将の緑さんは日本舞踊・池芝流の師匠で、八代続く生粋の江戸っ子。六六年に移住、今年で六十二歳になる。ブラジル生活は長いが「赤土にはなりたくない」。そんな気風に魅かれて、きょうものれんをくぐる男たちがいる。「おかえりなさい」が緑さんのいらっしゃいませ、だ。 
 家庭料理が中心。先月から実質的に厨房を引き継いだ小池信也さんも「女将のだしの味とかこれだけは崩せないというものがある」
 ブラジルに来て九年。小池さんは「AOI(アオイ)」や「らん月」といった流行りの現代日本料理レストランで腕を振るってきた。「でも外国人相手に疲れていた」。どんどんブラジル化していく自分が怖かった。もう一度原点をしっかりもちたいと思っていた。そんなときに『玉有楽』と出会った。
 時代錯誤か、潔さか。いまだにお店は「外国人お断り」。緑さんは二世の息子から「かあさん、同化しなきゃ」と言われる度に「それもどうか」と突っぱねてきた。
 同じく入店拒否を貫いたあげく、人種差別で訴えられた日本食レストランもあったがー。少しも気に留める様子はない。「第一、看板も出していませんし、ね」
 店は踊りの稽古場を改造した。ずっと「扇子一本」で生きてきたが、あるとき、「小さな日本を作りたい」。そう思い立った。
 お客と緑さんによる、ざっくばらんな掛け合いはぼけとつっこみ、まさに漫才のノリ。店の名物でもある。すだち、しその葉、えだ豆などはすべて日本の種で栽培されたものという気の使いようだ。
 気鋭のシェフ小池さんの加入で新た息吹も加わった。実家は寿司屋。修行は銀座のフランス料理店というその経験も生かし、和洋問わず多彩な嗜好に応じる。
 寿司・刺身はカウンター越しに提供する。「包丁の先まで見てくれる日本人の前だけで働ける」喜びを、小池さんはかみしめている。もちろんいまやサンパウロでも「玉有楽」でしか味わえない喜びだ。

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