日本とブラジルの経済交流=『コメルシオ・エステリオル』誌掲載、工藤章氏の寄稿文(3)=貿易圏整理する必要=大きい商工会議所の役割

5月1日(木)

 今後の日本ブラジル経済関係を考える上で、重要なファクターはFTAである。それは、米州全体を包含するFTAA(ALCA)であり、日伯間のFTAが主である。
 先ず、FTAAについては、二〇〇五年発足に向けて米州各国が準備に入っているが、日本としては勿論、これに加盟することはできない。日本にとってFTAAは、NAFTAの閉鎖的な側面が米州全域に拡大することを意味する。日本の中南米向け輸出は二〇〇一年で百八十億ドルであるが、FTAAによる貿易転換効果により、これは少なからず影響を被るものとみられる。例えば、自動車の輸出においては、優遇関税もしくはゼロ関税で輸入される米国、カナダ、ブラジル、メキシコなどFTAA構成国の自動車との価格競争で苦しい立場に立たされる。また、政府調達や政府関係機関のプロジェクト入札では、内国民待遇がないことから、FTAA構成国と比べて著しく不利な立場に立たされるものとみられる。
 さらに、メキシコが欧州連合(EU)とFTAを発効させ、チリもEUとのFTA交渉に最終合意し、さらにメルコスールもEUとFTAを交渉中である。米州諸国がEUとのFTAを発効させると、南北米州と欧州というFTAAよりもさらに巨大な市場が形成されることになるが、日本はその三角形の枠外に置かれることになる。
 他方、冒頭記述した通り、日本政府は、FTAへの取組みを開始したばかりである。日本では、FTAの検討を開始して年月が浅いので、国内ではまだ、研究会などを通して政府や企業は勉強をしているような状況である。
 ブラジルについては、アマラール通産開発相は昨年十一月の訪日において平沼産業経済相に日伯自由貿易協定交渉を申し入れた。その後、ブラジルでの大統領選挙もあり、特に交渉に進展があるとは聞いていないが、われわれ在ブラジル日系企業としては今から準備を行う必要があると考えている。
 そのためにブラジル日本商工会議所の役割は大きい。FTAは、在ブラジル日本企業としてどのような不都合があるのか整理する必要があるし、それら諸問題にどう対応するのか、また、どのようなことをブラジル政府に要望するのか、これからブラジル日本商工会議所で議論していかなければならない事項だと考える。
 日本企業は近年、中国市場に投資を集中しており、そのような中でわがブラジル日本商工会議所は、日伯経済交流強化に努力している。民間ベースで毎年、ブラジル側は全国工業連合(CNI)、日本側は経団連の間で「日伯経済合同委員会」が開催されているが、当会議所はこれに側面協力している。この中でも、FTAをテーマにブラジル企業とあらゆる意見交換を行いたいと考えている。
 昨年十月二十四日には、貿易、自動車、機械金属、電気電子四部会による「日伯二国間自由貿易協定構想」について意見交換会を開催した。
 サンパウロ州工業連盟(FIESP)国際貿易局のジョゼ・アウグスト・コレア局長(FGV大学企業経営学教授)にもご意見を伺ったが、「ブラジルと日本との間に自由貿易協定を結ぶことはブラジルにとって素晴らしいことだが、実現はまだかなり先の事であろう。いくつかの障害を乗り越えなければならないが、まず日本はFTAの経験が浅いことが挙げられる。日本は先ずシンガポールとの間にFTAを締結したが、シンガポールは人口四百万人の都市国家であり、国民所得が極めて高く、工業品を生産するという特殊的な国である。
 日本はメキシコとのFTA交渉に着手するが、これはメキシコが締結している北米自由貿易協定(NAFTA)及びEUとの自由貿易協定のプレッシャーがもたらすもの。在墨米国企業はNAFTAにより米国から容易に米国製素材を輸入できるようになったが、在墨日系進出企業は高関税により著しく競争力を失い、不利な立場におかれているためである。」
 ジョゼ・アウグスト・コレア局長のお考えも大いに傾聴すべき点があると思料する。
 私としては、これから在ブラジル日系企業は、ブラジルにおいて五十年に亘る良好な関係を基礎に、日本ブラジル両政府やブラジル銀行をはじめとするブラジル有力企業のご協力を仰ぎながら、これからの難局に当たらなければならないと思っている。日本ブラジル両国の関係は、八〇年代はブラジル側の景気低迷で、九〇年代は日本側の景気低迷で必ずしも順調ではなかったが、ようやく、最近先に述べたように、日本とブラジルの経済関係は再び回復してきた。ブラジル日本商工会議所の目標は、これをさらに強化し、第二のブラジルブームを日本に巻き起こすというものである。     (おわり)

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