政府開発援助=ODAの現場を行く=――環境の世紀に――=最終回=森林再生に近道なし=日伯研究者の取組みは続く

7月31日(木)

 大勢の人々を魅了する光沢に満ちたマホガニーの家具――。そんな高級志向が、アマゾンの破壊と密接な関係を持つ。
 「マホガニーを国際取引規制の対象種とする」
 昨年十一月、チリで開催されたワシントン条約締約国会議で、高級家具などに用いられることで知られるマホガニーが、国際的な保護を受けることになった。
 年々悪化するアマゾンでの破壊の構図は、こうだ。まず最も金になる高級木材を切り出す▽次に家具や建築に使用される一般の木材を伐採▽残った木は価値がないので、農牧業用に土地を焼き払う。
 高級木材の代表格、マホガニーは一立方メートル当たり三レアルで切り出され、欧州市場では約一万レアルまでに高騰するという。
 マホガニーという存在が、アマゾンの森林伐採に拍車をかけてきたのは紛れもない事実だ。
 「荒廃地を放置してはおけない。将来的には経済性のある土地にしたい」とチーフアドバイザーの斉藤昌宏さんは力を込める。
 伐採者の標的となり続けてきたマホガニーを用いたアグロフォレストリーを確立することで、小農らの自主的な植林意識を高める。
 斉藤さんは言う。「緑化と言うより、要は村おこしですね」
 アマゾンを窮地に立たせたマホガニーが、今度は逆にその未来を担う。
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アマゾンの未来を担うマホガニーで様々な実験を行うアンテノールさん

アマゾンの未来を担うマホガニーで様々な実験を行うアンテノールさん

「蛾の幼虫が、マホガニーの一番の天敵なんですよ」。プロジェクトが所有するマナウス周辺の試験地で、国立アマゾン調査研究所(INPA)のアンテノールさんは、マホガニーを中心に据えた様々な生育実験を行っている。
 マホガニーを単独で植えると、一番成長のいい先端の芯の部分を虫が侵食。成長が止まってしまうため、マホガニーの植林は難しいとされてきた。
 そんなマホガニーを利用した混植に最初に挑戦したのは日系農家だった。
 ベレーンにあるアマゾン群馬の森では、九五年からマホガニーとコショウの混合植林が進められている。コショウ栽培に従事する日系農家は、単体では虫が付きやすいがコショウと一緒に育てると、防虫の効果があることを知っていた。
 現在プロジェクトでは、六カ所の試験地計二十ヘクタールに植えた約一万五千本の樹木で実験中だ。
 一九九九年から試験林を造成しているエフィジェーニオ・デ・サーレスではマホガニーとジャカランダ、バルサ材などを混植。「バルサ材は虫からマホガニーを守ってくれる」とアンテノールさん。
 同時期に植えても、バルサ材の方が早く成長するため、マホガニーの先端を覆い隠し、虫が付きにくくなる効果を持つ。
 六カ所の試験地は牧場跡地や放棄された畑など様々な前歴を持つ。「色んな条件で実験することで、マナウスだけでなくパラー州など各地で使える技術を開発したい」と斉藤さんは、その将来像を描く。
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 「ほら、私の手を見て下さい」。細かい傷にまみれた手のひらを見せながら、アンテノールさんが笑う。
 マナウス生まれのアンテノールさんは、父が農業に従事していたので、幼少から農作業の手伝いをしたという。「私の人生は常に農業と一緒だった。それだけにアマゾンの回復に全力を尽くしたい」と語る。
 日本の長期専門家もそれぞれの分野で、奮闘中だ。
 「アマゾンは世界的にも注目されているし、やりがいがある」とは土壌を担当する平井敬三さん。世界最大の熱帯林とは言いながらも、アマゾンの土壌は酸性が強く、条件的には恵まれていないという。
 一見、緑豊かなジャングルに見えても、一歩足を踏み入れると幹が細い木が目立つのがその証拠だ。
 土を採取しては、乾燥させてふるいにかけ、データとして保存する。「思った結果にならないこともあるが、長い目で見て一つでもうまくいけばいい」とコツコツと作業を続ける。
 森林での作業は、時に危険さえ伴う。「日本では年間に二十人近くが亡くなっている」と斉藤さんは、ハチの被害を打ち明ける。実際、平井さんもハチに襲われ気分が悪くなり病院に運ばれている。
 「森林再生に近道はないんです」とアンテノールさんが言えば、斉藤さんも「アグロフォレストリーに教科書はない」とプロジェクトの道のりの長さを強調する。
 二十一世紀の地球環境を担うアマゾン。日伯研究者の地道な取り組みが続く。(おわり 下薗昌記記者)

 

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