サスペンス小説『国籍不明』=ブラジルも取材/浅野涼子書く

8月7日(木)

 元パウリスタ新聞記者の経歴がある作家・麻野涼さん(在東京)の新しい国際サスペンス小説『国籍不明』(上、下)が、このほど講談社から発行された。時代的背景は日本の朝鮮支配時代、戦後の朝鮮戦争を経て現在まで。日本人拉致、麻薬取引、偽ドル・ロンダリングなどの今日的事件をからめて小説をつくっている。北朝鮮、韓国、パラグアイ、ブラジル(フォス・ド・イグアスー、サンパウロ、ペルイーベ、サルバドール、パラ州マラジョー島付近など)で取材を積み重ねてきた筆者ならではの作品だ。
 全編を通じ非情な話ばかりだが、非常に読みやすい。二巻を一気に読ませられる。登場する人物は、朝鮮人戦前移民、朝鮮戦争直後にインド経由ブラジルに渡った帰順捕虜、戦後日本から北朝鮮に帰国した朝鮮人、いわゆる在日とその子、それらが北朝鮮の工作員、日本のジャーナリストとなってドラマのなかで活動する。さらに、日韓両国の領事、ブラジルの警察官、麻薬マフィアら。
 物語は、朝鮮戦争で金日成の側近だった一将校が進んで米軍捕虜となり、巨済島に収容され、戦後釈放時、金日成にかかわる高度機密書類を肌身話さず持ち、インドに送られるところから始まる。フィクションとはいえ、作者の目で語られる北朝鮮の過去、現実が興味深い。