■ひとマチ点描■いつも通りの街角

8月19日(火)

 バン、バン、バン――。十四日早朝五時半、深夜営業する向いのバールから鋭い炸裂音。外はまだ暗い。東洋人街の一角にある自宅アパートの窓からのぞくと、歩道にうつ伏せに男性が倒れている。バール客が逃げるようにいなくなりシャッターが閉められた。人垣ができ、通りがかりの道路掃除夫までが興味津々に覗き込む。
 二十分後、「息子よ、息子よ」この世の終わりのように泣き叫ぶ老婆が現れ、いつの間にか遺体の顔が上を向き、新聞紙が何枚もかけられた。一時間後、ようやく警官が現れ、現場をロープで封鎖するが、何をするわけでもない。
 七時半、市警の現場検証が始まり、通勤途中の人が作る人垣は最高潮に。二十分ほどで検証は終わり、死体はビニール布に包まれた。八時半、科学警察の遺体運搬車が運び去ると、見世物の幕が引かれたかのように人波が消えた。
 十分後、バール裏のアパートの住人らしき、七~八歳の男児がデッキブラシで、いやいやながら歩道にこびり付いた血糊を洗い流し始めた。人命の軽さ、無慈悲で乾いた現実を親が教えようとしているのか。そして九時、いつも通りの街角に戻った…。(深)