コラム 樹海

 シンドバットの冒険や多くの恋の話などを満載した「千夜一夜物語」の街・バクダットが今や恐怖と蛮行の都へと暗転してしまった。チグリス、ユーフラテスの大河を抱くこの地はメソポタミア文化を誇り前四〇〇〇年には青銅器文化と都市文明が花開き国は栄華を極める。前十八世紀後半になると世界最古とされる「ハンビラムの法典」が生まれ古代文明の基礎をも築く▼イラクという国の名はアラビア語で「豊かな過去を持つ国」の意味だという。歴史を振り返ると確かに誇りがあっていいし国民はもっと自信を持っていい。だがーイラク復興のために現地に入った国連施設に自爆テロで挑みデメロ代表や職員らを死に追いやった暴挙は許せない。犯人は特定されてはいないけれども、フセイン前大統領の一派かイスラム過激派かに決まっている▼国連が発足してから半世紀以上になるが、国連の高官がテロの標的にされ死に到らされた前例はない。ブラジル人であり将来は事務総長の有力候補と見られていたデメロ特別代表が初の犠牲者となったのは心が痛む。国連に与えた衝撃も大きい。小泉首相やブッシュ大統領も犯行を非難し深い憤りを表明した▼怖いのは米軍の軍事基地などへのテロだけではなく、平和を求める国連本部にも平然と攻撃する精神の構造である。恐らくー。イラクでの無差別テロはこれからも続く。だが、どんな理屈をつけてもテロ自体が忌むべき犯罪であり蛮行なのである。国際社会はテロ攻撃にひるんではならないし、イラクの再建に飽くまでも進みテロ集団の孤立化への道をこそ探るべきだ。  (遯)

03/08/21