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日系馬主らGPブラジルの頂上に近づいた日=「賭けるより馬を買う」=準二世鈴木さんの断言

11月12日(水)

 八月、リオ州ジョッキー・クルビ・ブラジルで「グランデ・プレミオ・ブラジル」が行われ、ロード・マルコス号(牡五歳)が優勝した。二十五年前の七八年、日系馬主四人が購入したブレス・デ・ガールデン号(牡四歳)は頂点を目指して同じ舞台に立った。ブ号は、前年のサンパウロ・ダービーで二着、セレソン・デ・ポートロ一着に入った優駿。コロニアの馬主たちが最も、南米最高の栄冠―グランデ・プレミオ・ブラジルに近づいた一日だった。日系馬主の一人、鈴木定夫さん(準二世、六八)に、競馬の思い出話を語ってもらった。
 鈴木さんは、六五年からサンパウロ市で帽子工場を営んでいた。八八年頃には、二十八頭の馬を持ち、コロニアで最も多くの競走馬を持つ馬主だった。「品質の良い帽子を作っていたため、NGKにイニシャルが入った帽子を納入するなど、仕事の景気は良かった。体も元気で、自分の馬が勝った日には、馬房の前でシュラスコをやり、五人の男性と二人の女性で十五キロの肉を食べ、たくさんのビール瓶を並べたものだ」と当時を振り返って笑う。
 九九年には、中国からの低価格帽子の流入、パラナ州アプカラナ市に五百件以上集積する帽子工場群の影響で工場を閉鎖した。現在では、毎日の散歩をかかさず、心臓病を患ってパイプを体内に入れているものの、その笑い方は豪快そのものだ。
 著名人との交流も多い。六七年に、ハマテツソ号(牡五歳)と共に来伯した中神輝一郎騎手との親交も深く。毎年、ブラジルを訪れている畑正憲さん(通称、むつごろうさん)にも、競走馬を購入する際にアドバイスをおくった。
 競馬はリスクがつきものだが「馬主生活で赤字を出したことはない」と明かす。その秘訣は「小さく、短距離を走る追いこみ馬で、足がまっすぐになっていること、高い馬ではなく丈夫ないい馬を買うことだ」と説明。「馬は賭けるものではなく、買うほうが儲かる」と言いきる。
 七八年、グランデ・プレミオ・ブラジル。パラナにいたブ号は、サンパウロまで車で移動。その後、夕方五時の飛行機のために、午前九時に空港へ入り、リオまで空輸した。このとき、飛行機での移動にプレッシャーを受け二十キロ減量。コンディションは最悪だった。
 二千四百メートル。アルゼンチンからの使者モガンボ号が、スタート当初から大逃げをうった。それに伴ってブ号は流れに巻き込まれ、二頭で百メートル以上馬群のはなを切る。鈴木さんの後ろからついていく指示を守らなかった騎手は、直線伸びず結果着外だった。このとき、最後の四百メートルで右前足を痛め、以後勝ち星に恵まれることはなかった。
 競馬の魅力について「マージャやカルタをしたことがありますか」との問いかけにつづき「自分の馬が、直線で追いこんできたスリルは、別次元のものだ」と目を輝かせて語る。運も必要と語る一方で、「帽子工場で稼いだ会社の資金は、使ったことは無かった」と、企業経営者ならではの意見も。
 現在でも三頭の競走馬を保有し、その年長の馬が先日のレースにも出場。現在のところ勝ち星はないが、鈴木さんは期待を捨てきれないでいる。「最も、女房には競馬をやめたと言っているが」と苦笑いした。

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