東方に生きる=ウルグアイ日系社会事情(4)=農牧と林業調和させる=アグロインダストリー国家確立へ

12月6日(土)

 緑豊かな平原に恵まれたウルグアイ。日本の面積の約半分に当たる約十八万平方キロメートルの大半が、牧草地だ。この小さな南米の小国で植林を進め、農牧と林業が調和したアグロインダストリー国家を確立しようと奮闘する日本人がいる。二十五年に渡って、ウルグアイで奮闘するオイスカ・ウルグアイ総局国際理事の三上隆仁さん(七八)だ。
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 「農業や林業の身近な知識を子供に与えることが、アグロインダストリー国家建設の基礎となるのです」
 十一月にウルグアイを訪問された紀宮さまが、ラバジェッハ県の第三十四小学校を視察された際、三上さんは力説した。
 一九九三年に設立された同総局は、同国を舞台に植林普及活動などに力を入れてきた。
 その柱の一つが「子供の森」プロジェクトで、教育文化省などと連携し、各県から最低二つの小学校が参加、計三十九の小学校が校庭内で植林を実施。紀宮さまが視察した第三十四小学校は、その最優秀校だ。
 セイボやイビラピラなどウルグアイの主立った木が育つ校庭内の植林地は、こぢんまりとしながらも非常に手入れが行き届く。
 苗から植えられた約四十本は、まだまだ若木の段階だが、その中で生育の早さが際だつものがある。
 ウルグアイ政府が植林を奨励するユーカリだ。
 「このユーカリが、ウルグアイの未来を担うんですよ」と三上さんは言う。
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 「この国には将来性がある」。七八年、林業の調査を目的にJICAの短期専門家としてウルグアイを初めて訪れた三上さんは、牧畜国ウルグアイの可能性を見いだしていた。
 五〇年に京都大学工学部を卒業後、紙パルプや繊維の専門家として世界各国で活躍してきた三上さん。
 当時、植林による林業の概念を持たなかったウルグアイで、三上さんは林業の確立に残る人生を捧げようと決意した。以来、九三年まで主にJICAの専門家としてウルグアイに滞在し、九三年三月にはウルグアイ技術研究所顧問に就任するとともに、同年十二月にはオイスカ・ウルグアイ総局を立ち上げた。
 約十年前からJICAや同総局が中心となって、政府の植林奨励政策を支援。わずか十年ばかりで約七十万ヘクタールの造林が行われている。
 日本の杉より五倍成長が早いユーカリと、三倍早い松は「早成樹種」と呼ばれ、造林の中心を担う。
 「成長が早いから十年もすれば金になる。これなら皆さんも木を植えようと思うわけです」と三上さんは力を込める。
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 国土の約七割を牧畜地で占めるウルグアイ。長年にわたる過度の放牧が、地力の低下を招いている、と三上さんは植林における問題点を指摘する。
 早成樹種による造林が軌道に乗った今、三上さんが新たに視野に入れるのが有用微生物を利用した有機農法の導入だ。
 化学肥料でなく、自然にやさしい微生物を生かしたこの農法は琉球大学農学部の比嘉照夫教授が開発。昨年、ブエノスイアイレス市で行われた講演会に参加した三上さんは「これだっ」とすぐ比嘉教授に協力を要請したという。
 「通常の有機農法は肥料にしかならないが、比嘉教授のやり方は肥料と農薬を生み出してくれる」とその利点を説明する三上さん。
 早成樹種とこの有機農法を組み合わせることで、林業と農業、畜産を系統的に組み合わせた「国興し」が可能になる、と三上さんは力を込める。
 「これからは工業化を目指す時代じゃない。発展が遅れた国はアグロインダストリーを目指すべき」
 ウルグアイをそのモデル国家にしたいと、夢を描く三上さん。
 「日本では六十歳を過ぎれば年寄り扱い。ここでは、年ではなく何が出来るかだけが問われるんです」。
 妻を亡くした後、ウルグアイ人女性と再婚した三上さんは、この国の発展に身を捧げるつもりだ。
(つづく。下薗昌記記者)

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