明るい社会を演出クリスマスの夕べ=ユバの若者たち感動の舞台

1月6日(火)

 恒例となった「ユバ・クリスマスの夕べ」が、昨年十二月二十五日、サンパウロ州ミランドポリス郡第一アリアンサの弓場農場で行われ、若者たちが主役の劇が観客の笑いと涙と感動を誘った。劇作家・鈴木計廣さん作の「キバのないおおかみ」を弓場農場と親交のあるNPO現代座の木村快さんが紹介した。
 孤独な一匹の狼と野山に住む小動物たちとの出会いを通して、既成観念にとらわれずに、相手を信じることが争いのない世の中を作る基本であることを暗示す劇作家・鈴木計廣さん作の「キバのないおおかみ」を親交のある木村快さんから紹介を受けたヤマ(と弓場農場の人々は自称している)の大人たちが、その作品が今の時代に明るい灯をともす、と直感して、脚本、演出、舞台装置、衣装作り作業のすべてを自前で行い、八歳から十代のヤマの若者二十数名が演じる劇に作りあげたもの。
 森の霊のような存在のフクロウ役を八十一歳の瀧本克夫さん(北海道出身、愛称・クマさん)が見事に演じた。交流協会二十三期生でヤマの子供たちに日本語を教えている木暮由香さんが友情出演をした。
 物語は――野獣のいない平和な森に一匹の孤独な狼がやってきて、サルやウサギら小動物に友だちになって欲しいと呼びかける。サルたちは警戒心を緩めない。みんなを襲うことは絶対にしないから、と狼は約束をする。口約束を信用できないサルたちは、キバを折れ、と条件を出す。狼は小動物たちの目の前で岩に顔を強く打ち付けてキバを折った。
 これを見た小動物の子供たちは警戒心を解き、キバを失った狼と仲良くしようとする。が、親たちはまだまだ警戒心を緩めない。そこに、戦争で負傷した人間の兵隊がやってきた。子供たちはキバのない狼をかばおうとするが、親たちは、この人間を追い払えば友だちにする、という第二の条件を提示した。
 やってきたのは両目を負傷し、餓死寸前の兵隊だった。狼はこの兵隊に水や果物を与えた。果物は小動物の子供たちが狼に渡したものだ。これで負傷兵は命をとりとめた。喜んだ負傷兵に素姓を聞かれた狼は、狼狽して、自分は〃豚〃だ、と答えた。そこに、同僚の兵(人間)がやってきて、両親の待つ郷里まで送るから一緒に行こう、と勧めた。負傷兵は自分を助けてくれた〃豚〃に最後にお礼を言いたい、と伝える。
 が、同期兵が見たのは豚ではなく狼だった。とっさに狼を鉄砲で撃った。事実を知った負傷兵は犠牲になった狼に詫び、同期と共に森を去った。
 人間が去った後に小動物たちは狼が死んだものと思い悼んだ。そこにやってきた森の霊・フクロウ老人は鉄砲の玉が急所を外れたことを動物たちに告げた。間もなく、息をふきかえした狼を小動物たちが友だちとして迎え、森に平和が甦った。
 狼を演じたのが弓場勇治くん、十六歳の三世で弓場農場の創立者・弓場勇(故人)の孫だ。日常から芸を鍛えられているヤマの若者たちの躍動感に満ちた演技が見事ながら、劇は二〇〇四年の前夜に相応しいものとなった。「このような劇をヤマだけでの公演で済ませるのは惜しい」という声が観客から強く出されたのは当然の帰結だ。
 他に、音楽と歌、ソーラン節、ダンス2003など多彩なオリジナル演目が上演され、近在だけでなく、サンパウロ、バストス、アラサツーバなどからも集まった千人を越える人々を魅了した醍醐味満載のユバ・クリスマスの夕べであった。