コラム 樹海

 ひところ、サンパウロ市内の日本料理店の経営者や調理師のグループが開催していた料理教室は、近ごろ、ぱったり音沙汰がなくなった。ここでいう料理教室は、いわゆる日本の調理師資格を持つプロが指導するものであり、婦人会や各文協婦人部が行う料理講習会とは分けたい▼こんなとき、元日本料理店主で調理師のAさんが主宰する料理教室が、地道な活動をしている。生徒はプロを目指す人、時間が許し材料代を含む授業料を支払える余裕のある純アマドールなどさまざま。初級とその応用クラスを生徒自身が選択して学んでいるという▼昨年の上半期の教室には、北パラナから八十歳を越えた女性が休まず通った。動機はこうだ。若いときは営農、子育てで余裕がなかった。日本料理づくりは好きだった。だが、できなかった。今、習ってつくれるようになった。存分に楽しんでいるようだ。同女性は誰のためにつくるのだろう。答えは「自分のため」なのではないか▼昨今、非日系人を相手にしたポルキロの店に握り寿司が並ぶ。このなかに、ワサビを全く利かしていないのがある。これが寿司か、と情けなくなる。寿司と言ってほしくない、と言いたくなる。非日系人に食べてもらうために、売れないと困るから、など理由はさまざまであろう▼郷に入ったら、のでん(傳)で、変容するのはやむを得ないかもしれない。Aさん主宰の教室出身者だけは、将来、寿司を握る際はちゃんとワサビをつけてほしい、そう望んでいる。(神)

04/01/28