日本文化の伝承を考える(12)=上下関係

2月18日(水)

 どの社会にも集団が機能するために、上下関係が存在する。例えば会議などで着席するとき、それぞれの社会によって、上の者が占めるべき席というのは自ずから定まる。
 日本の場合、この上下関係(格づけ)は、原則的には/支配する者、される者/金のある者、ない者/力のある者、ない者/能力のある者、ない者/の関係ではない。つまり序列、格づけは能力別ではない。勿論、力のある者や能力のある者が上位に着くことの方が多いのだが、本質的にはそのような関係ではない。
 自分を指す言葉、相手を指す言葉のところで述べた上下関係を見てもらいたい。家庭(親族)内の人間関係については、自分より上の世代に属する者は全て目上であり、自分と同じ世代の者との間では、年齢の上下が目上目下を決める。社会においては、同一集団内での存在時間の長い方が、上位となる。例えば/先輩、後輩/古参に対し新入社員/地域社会での長老/など。その他、店員とお客/スチュワデスと乗客/などの関係。先生、生徒/部長と課長/教授と講師/などの関係。また、医者と患者の間にも上下関係が存在する。
 これらの上下関係の内どの関係が優先するのかは、その時々の状況に応じ、どちらの関係が重要かによって変わる。 例えば、会社内では古参社員であっても年下の上役には敬語を使う。上役は年上の古参社員に対しては敬語を使う場合もあれば使わない場合もある。 敬語を使い分けるには、これら目上目下の関係を的確に把握しなければならない。日本の社会で育った者は、無意識にこの関係を把握している。しかし、外国で育った者が論理で理解し、敬語を使い分けるのは至難の業である。
 旅をしていて、突然病気になり地元の見知らぬ人に世話になったとする。世話をした人は人情があると言われ、病気になって世話を受けた人は「借り」を作り、義理を感ずる。
 ものを貰っても相手によって借りとなる場合もあれば、ならない場合もある。貸しのある下位の者から物を貰っても、借りとはならない。日本人のこのあたりの感情は誠に複雑である。もののやり取りも含めた人と人との貸借関係は、広い意味での上位下位の関係を作る。借りを受けたものは義理を感じ、貸しを作ったものは上位になる。恩を受けるのも貸借関係で、日本人はできるだけ借りを作らないように心がける。また、出来るだけ相手に貸し(恩)を感じさせないように気を配る。ものを送るとき「つまらないものですが」と言ったり、お茶を出すとき「粗茶ですが」と言うのはその現れであろう。(中谷哲昇カザロン・ド・シャ協会代表)