コラム 樹海

 台湾の陳水偏総統が遊説中に銃撃され腹部に裂傷を受けるという衝撃的な事件が起きた。今、台湾は総統選挙の最中であり二十日に投票が行われる土壇場のときである。陳氏と同行していた呂秀蓮副総統も右膝を狙撃され重傷を負っているし、政治的なテロと見て間違いない。陳氏は「一辺一国」(それぞれ別の国である)の主張で明らかなように「台湾独立」派である▼対する国民党の連戦候補は「中台関係の安定」を標榜し激戦を繰り広げ、事前調査では少しだが優勢の情報も流れている。だが、この政治的な対立が「銃撃」という蛮行に結び付くとは考え難い。もし、こうしたテロ行為があれば、マイナスが多いのは連戦陣営であるのははっきりしている。今のところ、犯人像も犯行の動機も不明ながら、この暴挙が選挙結果に重大な影響を与えるのは確実である▼それにしても、民主化が進んだ今の台湾で何故?無謀なテロなのか。台湾は朝鮮半島と同じく日本の支配を受けた重くも苦い体験を持っている。戦後には蒋介石氏の政府に何回も弾圧され差別も経験している。こんな現状を民主化へと導いたのが李登輝元総統であるのは記憶に新しい。戒厳令も解除し総統選挙の直接投票を実現したのも李登輝氏なのである▼もし、政府の施政に反対であれば選挙でその旨を訴える手段は保障されている。それを爆竹の騒ぎの中で銃で狙撃という凶行は許されるはずがない。こうした思い上がりの犯罪は折角ここまで育った民主化の芽を摘む事にもなる。 (遯)

04/03/20