デカセギ子弟=教育の現場から(上)=「残業」は言い訳=教育への関心薄い父兄

3月27日(土)

 三年間、日本の公立小中学校でデカセギ子弟の教育現場を見つめてきた日系二世、半田エウザ美登利さんは、イジメの実態、ポ語の通知を読めない親がいることなど、現場にいなければ分からない様々な問題に直面してきた。愛知県は独自の語学相談員制度をもっており、学校の補助教員や相談員的な役割を果たす人を、ブラジルから呼んでいる。現愛知県人会役員をする半田さんに、その一端を聞いてみた。
 「父兄にポルトガル語で学校の通知を出しても返事が来ない家庭があるんですね。それで電話して聞いてみると、書いてあることが分からないっていうんですよ、親が。ポルトガル語の通知を読めないんですね。昔は大卒で、やむなくデカセギに行く人が多かったけど、今は親が違ってきている。その分、子供の教育にも意識がないように感じました」
 四万七千人のブラジル人を抱える〃デカセギ大県〃愛知県は四つの教育区に分けられており、それぞれに語学相談員を呼んでいる。主な仕事は日本語の分らない日系児童・生徒からの相談を聞いたり、授業中、子供の横について先生の言葉を通訳して伝えたりする補助教員的な任務だ。
 任期は一年だが、三年を限度として期間を更新できるので、ほとんどの人は三年間務める。すでに十七人がブラジルから派遣されていおり、十二年間続いてきた実績を誇る制度だ。
 デカセギが集中する豊橋市、豊川市などが含まれる東三河地区にある小中学校約五十校を、半田さんは一九九九年から〇二年まで担当してきた。百人以上の日系ブラジル人子弟を抱える学校もある。
 「学期ごと(日本は一年が三学期)に、保護者会といって生徒の親と面談する機会があって、通訳として立ちあってきましたが、私がいた三年間の間に三回も父親が代わった生徒もいました」と回想する。「日本の方が離婚しやすいから」とその理由を説明され、半田さんは愕然とした。
 親の方にもいろいろ問題があると思います――。中には「給食があるから学校へやってるんだ」と平然という親もいた。それでも子供に勉強させるようにと説得すると、「誰が学校へやるお金を払ってると思ってるんだ」と逆切れして、子供の退学を示唆する人もいたという。
 半田さんは忙しかった自分の大学時代を思い出して、在日就労者の現状と比較する。「確かに親は残業、残業の毎日で忙しい。だけど、自分の大学時代を思い出したら、みんな昼間働いて、夜学に通っていた。それが普通だった。毎晩のように夜中の十二時に帰宅してました。子供がいる人もいたけど、ちゃんと面倒を見ていた。でも今、日本で働いている人たちは残業があるからっていうけど、だいたい夜九時、十時という人が多い。けっして子供の相手ができないことはないはずです」。
 「『残業が忙しい』という言葉が口癖のようになっている人が多いけど、本当は子供の教育に関心がないだけの人もかなりいるのではないでしょうか」と手厳しい。
(つづく、深沢正雪記者)