日本の若者ブラジルで将来を模索(7)=命かけて働ける対象=見えたのは消防士=山内和歌子さん(21)

4月1日(木)

  「自分の命をかけて働きたい」と燃えている女性がいる。山内和歌子(二一、沖縄県出身)は、色白でおしとやかな見た目とは裏腹に目指すのは危険を顧みない消防士だ。昨年四月から、ブラジル日本交流協会(山内淳会長)の研修制度を通じて、国外就労者情報援護センター(CIATE)で研修。が、見えたものは、消防士への道だったようだ。
 山内は、今年二月にサンパウロ州消防軍警の消防士養成学校(セベルノ・ラモス校長、サンパウロ州フランシスコ・ダ・ローシャ市)を訪問。ブラジルにある学校二つのうちの一つだ。昨年十二月の忘年会で知り合ったラモス校長の好意で一日だけだが、同学校を見学した。
 同学校は、新人の教育からレスキュー隊、幹部養成にいたるまでの消防の総合学校。消防車格納庫や寮、校舎はもちろん、ヘリポートやビルを模した訓練棟、下水道を模したトンネルなど実践的な設備もある。
 州内でおよそ一万人(女性二百四十五人)が働く消防隊。その活動の七〇%を占めるのが救助活動、残り三〇%が火災消火だ。ラモス校長によると「交通事故の人命救助から動物の救助、下水道に入った子ども」まで救う人は様々。同校の多様な設備もうなずける。
 来伯に先だって、山内は沖縄の学校をたびたび訪問した。「ブラジルは日本と違い、自由にやっている。日本は、空いた時間にトレーニングや図書館で勉強するなど、まさに学校だった」と日伯の雰囲気の違いを強調する。
 「消防に関しては、日本は世界でもトップクラスなのでは」と山内。ブラジルの消防設備の日本との違いが目立つ。サンパウロ州から東京に派遣されることも珍しくはない。「日本の良さは右向けと言ったら、全員が右を向くような”軍隊的”なところ」と分析する。
 「君は厳しい世界を知らず、人に甘えすぎているから、(ブラジルに)行ってこい」と送り出したの父・正だ。正は、消防学校で指導する現役の消防士。東京消防庁のレスキュー隊として活躍し、沖縄では指導者として教鞭を振るう毎日を送る。父の存在は、山内が消防士を目指すきっかけの一つだ。消防士の厳しさを知る父は「消防士になって欲しくない。警察の方がいいのでは」と勧めているそう。
 同協会をポスターで知った当初は、日本語教師を考えていた。来伯しパウリスタ大通りで車上火災の救助をみたり、過去写真の中で火災現場の様子を思い起したりするなどして、消防士への思いがゆっくりと形作られた。帰国後は大学三年生。消防士への公務員試験に向けて、山内は密かに燃えている。(敬称略)
    (佐伯祐二記者)

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