デカセギ子弟=教育の現場から(下)=学力不足 深刻…=高校進学者「10人に1人」

4月2日(金)

 語学相談員として愛知県で教育現場を見つめてきた半田エウザ美登利さんは、一九九三年にも県の技術研修員として日本で過ごした。宿泊先だった国際留学生会館で色々なイベントがあった折、公立学校の教師らと話をする機会があり、その時にデカセギ子弟の教育問題を初めて知り、興味を持った。
 「ブラジルでは七歳で小学校に入学するが、日本では六歳。つまり、ブラジルで小学一年の子供が、日本の学校に転入すると二年生にはいる。日本人はすでに九九や掛け算をやっているが、ブラジル人の子供は知らない。分らないままにしておくと、そのまま落ちこぼれてしまうのです」
 子供からの相談事で最も多いのは「イジメ」に関すること。「特にブラジル人だからいじめられる、ということではありません。日本人の子供と同じように、ということ」。相談内容を担任の先生に伝え、対応を練る。
 「ただ、私からするとイジメ、イジメって言い過ぎのような感じがします。ブラジルでは〃ゴルジンニョ〃(ふとっちょ)とか、当たり前に言いますよね。でも、それを日本で言ったらイジメになる。眼鏡をかけている子供に〃眼鏡〃って言ったら、もうイジメなんです。マスコミが騒ぎすぎなんじゃないですかね」
 実際、赴任中に「眼鏡」と言われるのを苦にして、子供が自殺を図る事件が起きたこともあったそう。担任の先生に頼まれて、生徒全員の前で、ブラジルの国や習慣について話をすることもあった。
 子供が学校に慣れた場合、子供は学校で日本語ばかりしゃべり、ポ語を忘れる傾向が強い。一方、親は工場でポ語ばかりで仕事をするので日本語をおぼえない。「片親が日本語をしゃべれると家庭の会話は日本語になり、しゃべれない方の親は、家族の中でノケモノにされることもあるようです」。
 日本では中学(十五歳で卒業)までが義務教育。十六歳から正式に労働できる。しかし、ブラジル人の子供は日本人より大人びて見えることが多い。「十四、十五歳で学校を辞めて働きに行く子供がかなりいます。本当はいけないんですが、派遣会社が雇ってしまうんです。でも、仕事が厳しくて続かず、すぐに辞める子もいるが、もう学校にはもどれない…」。
 「なかには、『日本の学校は落第がないから、勉強しなくてもいい』という子供までいます」と哀しそうな表情をする。
 「中学二年の六月に日本へ行って、五分の時間を惜しんで勉強し、無事に豊橋の高校へ進学した生徒もいました。休み時間にも勉強している姿を見て、ある先生が献身的な協力を申し出て、夏休みまで学校で勉強していたような生徒でした」。熱心な先生との出会いは、まさに生徒の人生を変えるのだろう。
 ただし、そのような熱心な生徒は例外的な存在のようだ。ある中学では三年生のブラジル人生徒四人のうち、三人が進学したところもあった。しかし、大半の学校では、半田さんの印象によれば「十人に一人も高校へ進学していない」のが実状だそう。
 「事前に、もっと日本のことを知ってから行くようにしたほうがいい」と忠告する。一九九〇年当時から言われてきた忠告だが、いまだにそれさえできていない。日語もポ語もまともに読み書きできない子供を量産する現在のデカセギのあり方は、日本と日系社会双方に大きな課題を投げかけている。
(おわり、深沢正雪記者)