「ハルとナツ」のロケ地から(上)=風土再現=ドラマ用に棉花咲かせ

5月11日(火)

  「普通は大河ドラマぐらいでないと、これだけのものは使わないですよ」。約四千着の衣裳を前に、NHKドラマ「ハルとナツ 届かなかった手紙」のチーフ・デザイナーの深井保夫さんは、そう感嘆の声をあげた。九日午後、サンパウロ市から北西に約百キロのカンピーナスにある東山農場で、ほぼ七割完成しているセットの見学会が行われた。
 「いいものを撮りたい、いいものに仕上げたい。ブラジルの風土の中で、どのように当時のシーンが再現できるかがミソです」と、見学会に先立つ記者会見で、エグゼクティブ・プロデューサーの阿部康彦さん(NHKエンタープライズ21)は力説した。
 同農場ではブラジル・ロケの約七割、二十九カ所で百十九シーンが撮影される。クランク・イン(撮影開始)は二十三日で、七月中旬まで行われ、その後、日本の撮影が始まり、来年四月まで約一年間の長丁場となる。物語の昭和九年から同五十年ぐらいまでのシーンが撮影される。
 日本からはスタッフ二十人が来伯し、ブラジル側スタッフは六十~七十人と合流する。加えて、「二十人以上の俳優さんを海外へ連れてきてロケというのは、なかなかないんです」と、阿部さんは大所帯ぶりを説明する。
 異例の規模を誇る撮影陣と共に、セットの内容も普通ではない。
 「農作物まで、ロケのためにつくることはあまりないですね」と阿部さん。東山農場では撮影用に一月、棉を約六ヘクタール植えた。「(主演の米倉涼子さんが撮影開始する)六月十七日に、パッと咲かせてくれという注文なんですよね」と、同席した東山グループの高岡武博副社長は苦笑しつつ、「一〇〇%はムリですが、かなりいい線で」と農業技術への自信をのぞかせた。
 米倉さんは到着しだい、〃綿摘み〃の練習もするようだ。
 東山グループの岩崎透社長も「できるだけの協力はさせてもらいます」と全面支援の姿勢だ。同農場(約八百四十ヘクタール)は一九二七年に岩崎家三代当主の岩崎久彌(ひさや)さんが、土地に深く根ざし生産を営むことを目的に個人出資し、ポルトガル人から買ったコーヒー農園がもとになっている。
 深井チーフ・デザイナーは昨年十一月、建物や小道具などの取材のために一度来伯。「想像を絶する話でしたよ」と、実際の移民をインタビューした感想を回想する。「アリアンサ、カフェランジアあたりで取材させてもらった。やはり資料だけじゃダメだ、と思いました」。
 実はそれ以前は、日本に保存されている移民の写真やフィルムを元に、場面ごとのセットを設計していた。「日本に帰ってから、それまでに用意していた図面を全部描き直しました」。
 深井さんが正月返上で取組んだ新図面を元に、映画医『ガイジン2』はもちろん、最近のTVグローボの人気ドラマでも美術監督も担当した山崎百合薫さん(三世)のスタッフが、今年二月からセットの建設をはじめた。「彼女の仕事に私は満足しています。ハリウッドとも仕事したことありますが、それよりやり易いです」と深井さんは絶賛する。
 阿部プロデューサーはセットを案内しながら、「美術スタッフのやりとり、これ自身が日伯交流そのもの」と目を細めた。                                                (つづく)