教科書 時代を映して変遷(25)=文協日語校が現地校に=インダイアトゥーバ=生徒増、地域貢献ねらう

5月19日(水)

 文協日本語学校を現地校に移行──。
 サンパウロから北西に約百キロのインダイアトゥーバ市。中心街から自動車で十分ほどの距離に、同市日伯文化体育協会(安部誠会長)がスポーツセンターを所有している。
 三・九ヘクタールの敷地内には野球場、プール、テニスコートなどがそろう。その一角に、今、学校が建設中で、竣工後に同協会の日本語学校が移転してくる予定だ。
 一部関係者の間で、現地校に切り替える構想が浮上。市から認可が下りるように、校舎の設計にも余念がない。
 新国良二元会長は自信を持って、こう動機を説明する。
 「日本からの移住者はもう、来ないし、日本語を使う家庭も少なくなった。それで、日本語学校は採算が採れなくなったんです。現地校にすれば生徒も増えるし、地域貢献だって出来ます」
     ◇
 インダイアトゥーバはかつて、トマト栽培で栄えた。トヨタが生産工場を持つことでもよく知られる。 八〇年代より世代交代が顕著化。日系社会の在り方について、地元有識者たちが議論を戦わせ、結論が二〇〇一年の定款改正に集約された。
 「日本人会は学校を経営すること」。日本語教育が義務づけられることになったのだ。新国元会長は「これで、文協が娯楽クラブに変わることは、絶対にありません」と断言する。
 日本語学校はもともと、父兄会による経営だった。教師が保護者の顔色をうかがいながら、教壇に立つことになってしまった。さらに、一般の協力も取り付けにくく、「自分の子の面倒は自分で見なさい」といった声も聞かれた。
 そのため、〇一年に運営協議会を設置。理事会直轄の特別機関とした。理事長、総務、会計など六人によって構成される。任期は二年で同じ役職に継続して就くことは出来ない。
     ◇
 「インダイアトゥーバに行きなさい」。ブラジルで最先端をいく学校を各方面で尋ねたら、そんなアドヴァイスを多くもらった。国際協力機構(JICA)、国際交流基金、ノロエステ日本語普及会などが最近、視察に訪れたという。
 評判の学校をコーディネートするのは、向井エリーザさん(二世、四〇)。州立校の数学教諭でもある。
 同校の卒業生で日本語に堪能だということから、九四年に助手として入った。九六年に一旦、退職。教師養成講座などを受講した後、九八年に学校に戻ってきた。〇〇年に授業形態を複式から単式(一斉授業)に切り替え、新風を巻き起こした。
 ブラジル学校の学年に合わせて幼稚園から中級までの十クラスを想定(夜間を除く)。もちろん、小人数や生徒数がゼロになるクラスも出る。
 だが、向井さんは「単式ほうが効果が上がることは実証されています」ときっぱり。視線の先には、現地校への移行があるようだ。
 教師は四人。青年ボランティアを除いて現地採用の三人はすべて、労働手帳に登録済み。経営は楽ではないが、文協が赤字を補填している。「向井さんの熱意には頭が下がります」と運営側は敬意を表す。
 州立校の仕事の関係で、近いうちにコーディネーターを退き、授業だけを受け持つことになりそう。「定年退職したら、つきっきりで学校をみていきたい」。向井さんは、そう将来の夢を語った。つづく。(古杉征己記者)

■教科書 時代を映して変遷(1)=教育勅語しっかり記憶=イタペセリカ 今も「奉安殿」保守

■教科書 時代を映して変遷(2)=国粋主義的思想〝植え付け〟=満州事変後の日語教育

■教科書 時代を映して変遷(3)=ヴァルガス政権発足で=日語教育は〝地下活動〟

■教科書 時代を映して変遷(4)=戦後に一、二世の〝亀裂〟=それでも日語教育は消えなかった

■教科書 時代を映して変遷(5)=人間教育を重要視=『松柏』の川村さん=「戦前の教科書に夢があった」

■教科書 時代を映して変遷(6)=いち早く日語教育理念=アンドウさん=〝コロニア向け〟の必要説く

■教科書 時代を映して変遷(7)=〝コロニア教科書〟作製しても=外国語教育令が足かせ

■教科書 時代を映して変遷(8)=科書時代を映して変遷=『日本語』8巻61年完成=翻訳して当局の検定受ける

■教科書 時代を映して変遷(9)=保護者の矛盾した意識=日本語教育は必要=教師月謝は上げぬ

■教科書 時代を映して変遷(10)=初訪日研修員がつくった=『にっぽんご かいわ』=2つのレベルで

■教科書 時代を映して変遷(11)=初訪日研修員がつくった=『にっぽんご かいわ』=2つのレベルで

■教科書 時代を映して変遷(12)=日伯文化普及会が産声=早い時期に認識=日本語教育は外国語教育

■教科書 時代を映して変遷(13)=日語学校の生存競争=激動90年代、学習者減る

■教科書 時代を映して変遷(14)=日本語能力低下に対処=文協が講座を開設

■教科書 時代を映して変遷(15)=高評価、よく売れる=橿本さんの『きそにほんご』

■教科書 時代を映して変遷(16)=視覚に訴えるテキスト=現代っ子のニーズに合わせて

■教科書 時代を映して変遷(17)=州立校では初の試み=レジストロ日本語が選択科目に

■教科書 時代を映して変遷(18)=USP日本語講座開設=客員教授ら文法入門を刊行

■教科書 時代を映して変遷(19)=USP、やりにくい日本語授業=学生の出発点異なる

■教科書 時代を映して変遷(20)=〝応急処置〟的な役割=デカセギ向けに会話ブック

■教科書 時代を映して変遷(21)=デカセギ向け講座開設=CIATE=必要に迫られ毎回満員

■教科書 時代を映して変遷(22)=帰国子女を受け入れ=イタマラチ学園=日本の国語教科書採用

■教科書 時代を映して変遷(23)=教材に童話『シンデレラ』=基金、教師養成を支援

■教科書 時代を映して変遷(24)=レベル異なるから複式で=日本語学校の“宿命”