「終戦の日に贈る日本人の心の歌」ショー=「終始、涙を止めることが出来ませんでした」=感動のフィナーレ飾る=「悲しき口笛」八歳少女が見事に

8月19日(木)

  「この感動は忘れません」間部よしのさんは、万感の思いを込めてショーの感想を述べた。坂本美代子さんは「終始、涙を止めることが出来ませんでした」と興奮覚めやらぬ様子でかたった――。
 歌謡ファン待望のチャリティーショー「終戦の日に贈る日本人の心の歌」が同実行委員会(道康二実行委員長)とニッケイ新聞社の共催により終戦記念日の十五日、午前十時から文協記念講堂で満員の観客を迎えて行われた。
 終演の午後五時まで会場は溢れる感動に包まれ、来場者は終戦の日を振り返り現在の幸福を噛みしめていた。
 日本の作・編曲家の佐々永治さんが作曲し、この日初めて公開された曲をシャープス・アンド・フラッツが演奏し、ショーは華々しい開幕を飾った。司会とナレーションは道康二さんと高森薫さん、井川悦子さん。
 沖縄激戦の体験者、国吉真友さんが明治三十八年の曲「戦友」を歌いプログラムが始まった。
 戦前、戦中、戦後と時代を追って進行し、一曲ごとに時代背景が伝えられた。
 戦争歌謡最大のヒット曲「麦と兵隊」勇ましい曲調で戦争へと突き進んだ。戦後間もなく焼け野原の中、生きる希望を失った国民に力を与えた「りんごの歌」。その後も尾を引く戦争による悲劇を歌った「岸壁の母」。
 出場歌手たちの心のこもった歌唱に、会場から盛んな拍手が送られ、客席の中にはそっと瞼を拭う人々の姿が見られた。
 「同期の桜」などの軍歌を耳にして、「戦争当時に父や母が聞いたり、歌ったりしているの覚えています。なつかしいです」と大棟緑さん(80)。
 一際観客の目を引いた歌手は中井フェルナンダゆみちゃん。美空ひばりが十二歳で歌ったデビュー曲「悲しき口笛」を、美空ひばりも仰天、八歳の少女が見事に歌い上げた。
 また、歌の前に読者の便りが数編、司会の高森さんによって紹介された。
 「移住当時、友人が歌ってくれた『長崎の鐘』に励まされました。亡き友人を偲んでもう一度聞かせてください」と、パラー州アンケール市在住の刀称勇さん(とねいさむ・92)。
 サンパウロ市在住の浜田照美さん(58)からは、「母は、関東大震災と戦災に遭遇。横浜の防空壕で私を産みました。その母も今年九十五歳。森進一の『おふくろさん』を聞く度、母の偉大さを教えられます」との手紙が寄せられるなど、他にも感動を呼ぶ便りが披露された。
 途中、ブラジル水泳界初のオリンピックメダリスト岡本哲男さんが壇上に拍手で迎えられた。「大和魂でメダルを取りました」と岡本さん。
 本紙読者のリクエストによる五十曲も終わりに近づき、たくさんの応募があった「ふるさと」を伊藤カレンさんが熱唱し、コロニア人気歌手による競演は終わった。
 その後、特別出演の中平マリコさんによるショーも行われ、リクエスト第一位に輝いた滝連太郎の「荒城の月」などを歌った。童謡の「赤とんぼ」では、中平さんの誘うような歌い方につられ、会場中の人々が歌を口ずさんだ。
 「日本の心がこんなにも強く生きている」と、日本から駆けつけた中平さんは同ショーに参加して、逆に感動を受けた様子。中平さんのショーで、この日のプログラムは全て終了した。
 「三世で日本語による会話が出来なくても、歌には感情を込めて歌える。やはり、日本人の心があるんだろうね」。熱心に鑑賞していた吉崎哲男さん(71)は、感慨深く語った。