サンタクルス病院=「お年寄り」に関するセミナー=日系社会の高齢者問題考える=将来に漠然とした不安=互いに助け合える組織づくり必要

8月31日(火)

 サンタクルス病院(横田パウロ理事長)は、二十五日午後、「お年寄りに関する国際セミナー」をUNIFAIで開催し、三百人以上が出席した。共催は「憩の園」、後援はサンパウロ日伯援護協会、JICA。講演者の金本伊津子教授は、日系の高齢者は将来に漠然とした不安を持っていると指摘、福祉を実践する拠点と家庭をつなぐ〃網の目のような組織〃の必要を提案した。
 社会福祉士・老齢学者のトミコ・ボーンさん、中川デッシオ精神科医、中川エジソン神経外科医、金本伊津子人類学者ら各専門家の講演の後、一般参加者を交えての討論会が行なわれた。
 平安女学院大学の金本教授(人類学と老齢学)は「ブラジル日系社会高齢者実態調査」に関して報告した。同調査は昨年度援協が中心となって実施し、金本教授が取りまとめたもの。
 一世のみならず二世の高齢化も進み、介護を担う世代が共働きまたはデカセギによって不在になるなど、日系社会の高齢者の問題は九〇年代に入ってますます深刻化している。
 しかし、介護が必要になったときは、病院や老人ホーム以上に住宅介護を望む高齢者が圧倒的に多いことが調査結果で明らかになった。
 日系高齢者が老後に抱える不安は大別して、「健康」「介護者の不在」「医療保険の経済的負担」「不安定なブラジル社会のシステムに関する不安」「不安定な収入」「国籍」「言葉」の七項目。
 「健康である」(八一・六%)、「介護者が居る」(九八・九%)という調査結果が出ている一方、「多くの高齢者は漠然とした不安から逃れられない状況にある」と指摘した。
 金本教授はまとめに「日系老人福祉ネットワーク」の構築を提案。援協、文協、県人会、病院、老人福祉施設、デイ・ケア・センター、グループ・ホーム(高齢者同士がお互いに助け合いながら生活するシステム)など福祉実践の拠点と家庭をそれぞれ結ぶネットワークの確立の必要性を説明した。
 各専門家の講演の後、討論会が行なわれた。「在宅介護を望む声が強いが、孤独を嫌がる人もいる。老人ホームに入ることは悪ではない」、「仕事の間祖父母を預ける、〃お年寄りのための幼稚園〃を作ってはどうか」、などの意見が一般参加者からも飛び出した。
 横田パウロ理事長は、「同セミナーの報告書をポ語と日語で作成する」と発表、今後も日系高齢者をケアするプロジェクトを進めていく意欲を見せた。