和麺=日本起源のブラジル文化になるか(4)=ブラジル人の味覚に「近づけよう」の試み

9月24日(金)

 一般的なブラジル料理は塩気の強いものが多く、デザートを別として「甘味」を持つものは存在しない。非日系人には、日本食のもつ甘味が敬遠されてしまいがちだ。
 一世を対象にするのなら、日本の味に近付ける必要がある。ブラジル人に食べてもらいたいのなら、ブラジル人の好みに合うよう甘味を押さえて濃い味にしなくてはならない。
 グローリア街のレストラン「木下」は、日本製の食材を取り寄せ、あくまで日本の味で勝負している。しかし、ターゲットは一世ばかりではない。「料理人は教育者でなければならない」と力をこめる村上強史さん(35)は、濃い味を好むブラジル人に対しても薄味や微妙なだしの味を教えていきたいという。
 「こういうものも食べてみなさい、といい意味でお客に暗示をかけたいんです」。
 醤油をきかせた関東風とだしの旨味を活かした関西風の両方を用意し、さらに客の好みに合わせて醤油、塩加減で味を調節して提供している。
 だしと醤油をうまく組み合わせた本来のうどん・蕎麦の味を非日系人にも伝えようとする「木下」とは対照的に、ブラジル人の味覚により近付けたうどんを提供しているのが「中村うどん」だ。
 「うちのうどんはブラジル人向けです。日本から来たばかりの人には合わないのではないでしょうか」と主人も話す。同店は、全て国産の材料で勝負している。
 砂糖を一切使わないことで、塩辛い味を好むブラジル人に受け入れられやすくしている。「こっちでは醤油の味が強い方が好まれるんです」。味が薄いと自分で醤油をドバドバ足して食べる客もいるそうだ。
 確かに同店のうどんつゆは塩分が強い。透き通った関西風のつゆとは違い、醤油の色が濃く出ている。関東風か、と尋ねてみたが、小林さんは「関西風・関東風」については関心がないようだった。
 つゆだけでなく、具にも特徴がある。卵は丼に直接落とす月見か卵焼きかを選ぶことができる。メニューを聞きにきた店員が「みんなこっちを選ぶわ」としきりに卵焼きをすすめる。日本では生卵を食べるのにさして抵抗感はないが、十分に火の通っていない卵をすすんで食べる客は少ないのだろう。
 またうどんにチャーシューが入っているのも珍しい。日本では、ラーメンの具としては定番だが、うどんに乗せることはまず考えない。
 少なからず〃ブラジル化〃されているといえる同店のうどんの味は、主人の小林さんが二世であることに大きく影響されているようだ。先代の主人である伯父のもとで修行した経験はあるが、日本のうどん屋での経験はない。
 日本の味に囚われることなく、ブラジルにおけるうどんの味を追求しているのが「中村うどん」だといえる。
 しかし、同店でうどんを注文する客は八〇%が日本人または日系人。まだまだ非日系人に受け入れられているとは言い難い。つづく。(大国美加記者)

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