コラム 樹海

 ブラジルから帰国後の小泉首相の身辺は、必ずしも平穏でないようだ。山積する公約・課題を実現しようとすれば、野党および与党の攻勢を受ける。自身が「これだ」「よかれ」と信じて、おし進めようとしていることがらほど、反対が多いのが現状である▼感涙の原因となった、ブラジルでの歓迎は、いまでは懐かしい思い出だろう。実は、小泉首相以上に感激の極を体験したのが、グアタパラ移住地の人々であった。グァタパラ新聞十月号は、大きくページを割いて、同移住地の史上初めての「大事件」を報じた。Aさんの手記が当時を伝えている▼「あの日、移住地サッカー場での十分間ほどの出来事に、私たちは何が起こったかを考える余裕がまったくない混乱と興奮の中に引き込まれ、ある人は叫び、ある人は顔面を涙で満たして、顔をゆがめて声も出ず、(首相に)握手攻めをし、肩をさわり、背広を引っ張り、誰からともなく万歳を幾度も繰り返し…あの瞬間、自分がどのように行動したか。その一部始終を正しく思い出せる人は誰もいない…」▼こうした「大事件」は、少なくとも一世が元気な内はもう起きないであろう。移住地史上初めてで最後だろうと予測できる▼それにしても、小泉首相は、上空のヘリから地上の「歓迎」の大文字を見て、よくも降りようと決断したものだ。人は、その〃軽さ〃をとやかく言うかもしれない。しかし、小泉さんにしかできなかった、の評価のほうがはるかに高いと思われる。(神)04/10/20