移住史を教科書に=日本の地理・歴史教育者向け雑誌が特集=「百周年までには実現を

10月23日(土)

 教科書に南米移住史を!――。日本の歴史教育者協議会が発行する月刊誌『歴史地理教育』九月号で、特集「近現代史の中のブラジル移住・移民」が組まれ、日本中の地理・歴史教育に携わる小中高校教師らの目の触れるところとなった。全百二頁中の三十三頁を割く力の入れようで、五人の著者がそれぞれの専門分野から論じている。中でも本庄豊さん(京都歴史教育者協議会事務局長)は昨年八月に来伯して以来、この企画実現に向け尽力してきた。これがきっかけとなり、日伯教育関係者が手を取り合えば、「百周年までに教科書記述を」も夢ではないかもしれない。
 本庄さんはこの教科書問題の大きさ、底の深さを、「日本近現代史のなかに移民・移住を体系的に位置づけることは、ある意味では歴史教科書そのものの全面的な書き換えにつながる大きな問題である」と位置付ける。
 今回の企画を始めた理由として、「ブラジルの大地に集約的農業を普及するなど、勤勉な日系人は信頼される存在になっている。にもかかわらず、日本に歴史教科書にはブラジル移民・移住史についてのまとまった記述がない。(中略)戦後のブラジル移住についての記載もない。デカセギとして三十万人近い日系ブラジル人が来日している歴史的な背景や、日本近代史にとっての移民・移住の意味について、日本の子どもたちは系統的に学ぶ機会がない」という現状を挙げる。
 今後の目標として、「四年後の二〇〇八年はブラジル移民・移住百周年の節目の年。それまでに移民・移住史を歴史教科書に記載させていくとともに、ブラジル側と連携しながら私たち自身の授業実践をすすめ、共通の教材作りをめざしたいものである」とまとめに記す。
 また、千葉県野田市立第一中学校の長屋勝彦さんは中学地理における学習を論じる。「新教育課程になり、ブラジルの学習は大きく後退してしまった。地理的分野の教科書から消えたからである。多くの学校ではほとんど学ばないで通り過ぎていることだろう」と現状を記述する。
 かつて、東京書籍の旧版教科書では「日本とブラジル」という単元があり、次のような内容が掲載されていた。【1】広大な国土と日系移民(日本の反対側に位置する国/まじりあう人種・民族/日本からの移住とその特色)【2】多面的に結びつく日本とブラジル(問題点が多い国土の開発/日本の企業の経済協力/進まない経済発展)
 「ラテンアメリカ最大で、日ごろ名前を耳にする機会の多い国ブラジルが、地理の教科書から消滅した今、どれだけの中学生がブラジルを学べるかは期待薄である。自主編成教材に頼らねばならない」とする。
 移住史を研究する、NPO現代座の木村快さんは「日本近現代史から抜け落ちたブラジル移住史」という一文を寄せ、「国を挙げてのブラジル移住も、日本の近代史ではまったく無視されたままです。ブラジル移住史に限らず、その後の満州移住史についても、移住を専門に扱う国際協力事業団の年表にも、歴史学研究会編の『日本史年表』にも一切記載されていません。その結果、百四十万人の日系ブラジル人を生み出した歴史をたどることが大変困難になっています」と論ずる。
 木村さんは「移住史は私たちのもっとも身近な国際史です。新しい国際関係が求められる世代のためにも、移住史の見直しをすすめてほしいと思います」と結ぶ。
 日本の教育関係者らが立ち上がり、このような特集が組まれたこと自体、無視されてきた長い過去から考えれば画期的な出来事だ。
 日伯の教育関係者が手を取り合い、一過性でない継続的運動として盛り上がれば、本庄さんが論じるように「百周年までに教科書の記述を」が叶うかもしれない。