自閉症=生活療法の効果①=何年ぶりかに「ママ、パパ」=ブラジルでの普及に期待

12月18日(土)

 自閉症児と健常児を一緒に教育することで知られる東京の武蔵野東学園。そこでの自閉症児治療は生活療法と呼ばれ、アメリカ・ボストン、ウルグアイ・モンテビデオの姉妹校でも実践され、大きな効果をあげている。モンテビデオ校では元JICAシニア専門家の三枝たか子さん(57)が十年前から指導にあたっており、生活療法の長所をブラジルでも認識してもらおうと、自閉症の男児を持つ矢野高行さん(41)、和美さん(29)夫婦=サンパウロ市=とともに普及活動に取り組む。

 「何年かぶりにママ、パパって呼んだんです――」
 矢野顕人くん(6)は十月末から一カ月間、モンテビデオヒガシ学校で過ごし教育を受け帰ってきた。そのときの様子を矢野さんは興奮気味に語る。
 「玄関を開けて私を見るなりお辞儀をしました。落ち着いているばかりか、生きているのが楽しそうでした」。また、目を合わせるようになり、ごはんを食べるようになり、その際にスプーンを使うようになったことなどにも触れ、「たった一カ月の間にですよ」と、目を輝かせた。
 今でこそ家族四人揃って食卓を囲めるが、一カ月前までは違った。
 「食事の時は戦争のようだった」と、振り返る。「名前を呼んでも何の反応もない。四つの子どもが家の中をぐちゃぐちゃに壊す」。
 自閉症とは脳障害が原因で起こる発達障害の一つと考えられており、一万人に五、六人の割合で発生。大サンパウロ圏内にも一万人の自閉症児・者がいると言われる。
 専門家の三枝さんは自閉症を「自分の世界に浸っている部分があって、そのために周りとのコミュニケーションがとれない」症状とみる。そのため、自閉症の改善には「周りに視野が広がるような教育が必要」だという。言葉の発達が遅れる、対人関係が上手くもてない、同じことを繰り返したがる、自傷行為を行うなどの特徴を持つが、人によって症状の度合いに開きがある。
 異常に気づき始めたのは顕人くんが一歳半の時。耳が聞こえていないのではないかと疑い診察を受けたところ、慢性の中耳炎だった。手術を受け治ったものの、顕人君はまだ、周りの音が聞こえていない感じがした。言語矯正に通ったところ、「精神科に行きなさい」と言われた。
 以来、医師でもある高行さんは「まじないでも自閉症にいいということは何でもしてきた」。顕人くんが三歳から五歳の間は、十八カ月サンパウロ市内にある有名な行動療法の施設に通った。
 そこで自分で着替えが出来るようになった。しかし、「年を取るごとに自閉の症状は悪化していくもの」「五歳までにしゃべれるようにならなければ一生しゃべれない」といったことをそこで言われた。
 昨年、五歳になったが、ほとんどしゃべらなかった。そんな時、三枝さんの講演会(昨年十二月)がサンパウロ市内で開かれ、矢野さん夫婦は初めて生活療法を知った。つづく 。  (米倉達也記者)

 【生活療法】自閉症の治療法の一つ。東京の武蔵野東学園の創設者、故・北原キヨが自閉症児を健常児と一緒に教育(混合教育)する中で生まれ、体系化された。同学園のパンフレットには「子ども自信の力で障害を乗り越えさせ、社会に自立させる方法」とある。体力づくり、心づくり、知的開発を三本柱に、食事・排泄などの基本的な生活習慣に始まり、集中力、言葉、遊び方、勉強などを成長に合わせて身につけさせる。集団での教育を行うことも特徴。
 関心のある人は、11・6633・2420(矢野さん)まで。