コラム 樹海

  邦字新聞の熱心な読者で、八十数歳の女性がいる。亡き夫が以前ブラ拓につとめていた関係で、いわゆる戦前からの「コロニアの人や出来事」にくわしい。知名の人物が、公私両面で、過去どういう言動をしていたのか、といったあたりである。尤も、その検証は不可能だが…▼女性は、わたしたち新聞づくりにたずさわる者にとってアタマの痛いことを言う。「新聞が書く(故人の)人物紹介には納得できない点がたまにある。実像との違いは大きい」「(あの件は)実際にはあんなじゃなかった」というふうにである。記憶力抜群で、いわゆる「端倪(たんげい)すべからず」だ▼弁解めくのは致し方ないが、邦字紙の新聞記者は、今や古い者で六〇年代の初めの渡航である。だから、直接会ったり、話を聞けない人たちのことや古い事件を扱う場合は、資料に頼ったり、健在の人に話を聞いているのである。新聞が印刷されてから「おかしい」と指摘されても、当惑するばかりである▼最近の社会事象を記事にした場合は、それが、活字として残り、後世、資料として使用される。こうした記事に関しては、さすがの八十数歳女性も「それは、違うんじゃないの」とは言わない▼コロニアでは、その時代、影響力がよりあって、発言力の強い人物が言ったこと、先に活字になったことが「正史」になったといわれる。コメント(答え)は、慎重にしたいものだ。分からないことは語らず、「分からない」と答えるのは勇気がいる。 (神)

05/1/21