たくさんの出会いに恵まれる幸せ―ふるさと巡り、各地で先亡者慰霊―=連載(4)=バス車内は演歌の日本=ガラス1枚隔て暑いゴイアス

4月23日(土)

 コーヒー畑には「氷川きよし」がよく似合う――。
 ふるさと巡り二日目、四月二日午前八時、一行は三台のバスに分乗し、二百七十キロ北にあるゴイアス州都ゴイアニアを目指した。
 道中、一号車ではNHK歌謡コンサート「期待の新人スペシャル」ビデオが流された。
 画面では、キラキラと輝く貴公子のような衣装を身にまとった、氷川きよしが「星空の歌手」を熱唱している。
 ふとした瞬間、すぐ横の車窓を見ると、通りすがりの名も知れぬ小さな町の景色が流れていく。
 赤や黄色のピメンタを漬け込んだカラフルな瓶を棚がたわむぐらい並べた商店の軒先、そっけない素焼きレンガの赤い壁、朝からバールにふけこんでビールを飲むブラジル人若者二人の倦怠感ただよう眺め、空気がゆがみそうなぐらい強い直射日光を感じさせる熱帯果樹の街路樹の濃い影、そして市街を過ぎると、見渡す限りのコーヒー畑が広がる。
 「星空の歌手」を聞きながら、そんな光景を見ていると「ここは何処だっけ」と不思議な気分になる。
 映像の力は本当にすごい。この種の団体旅行に参加するといつも思うのだが、冷房の効いたバスの中は日本で、ガラス窓一枚へだてた向こうは外国だ。
 そういうことに最初は違和感があるのだが、徐々に慣れていき、気が付いたら当たり前になっている。これも、ふるさと巡りの醍醐味の一つか。
 次々に画面に現れる新人歌手の中には、日系三世の南かなこもいた。初めて聞いた彼女の持ち歌「居酒屋サンバ」のサビに、どこか違和感を覚えた。
―♪サンバ、サンバー、居酒屋~っ、サーンーバー!
 実に気持ち良さそうに、思いっきりコブシを利かせて唸る南かなこ。見事な演歌だ。煮込み、やっこなど十八種類の居酒屋定番メニューを織り交ぜた歌詞に、「サンバ」を連呼する明るいメロディー。
 しかし、だ。毎年サンボードロモで本物のカルナヴァルを取材している記者としては、「一体どこがサンバなの?」と思わず突っ込みたくなる。
 「お祭りマンボ」(美空ひばり)などの〃名演歌〃はあるが、日本の日本人は何かを誤解している、ような気がする。
 ブラジル出身だから〃サンバ〃演歌を歌わせるとは少々安易かと思い、インターネット上でファンの反応を調べみたら、理屈抜きに「元気付けられた」との感想が意外と多い。そのちぐはぐさが、むしろ好印象につながっているようだ。
 ブラジル生れだからこそ、実は、アメリカかぶれの今どきの女性より大和ナデシコに育てられていることもあることは、この際、置いておいた方がいいようだ。
 「Eu Amo Brasil. Beijao para Todos!!」。ビデオからは、南かなこの弾けるように元気な声が響く。なにはともあれ第二のマルシア目指し、移民百周年の頃には紅白歌合戦に出場するような有名歌手になり、全伯数カ所で凱旋公演してほしい。
  ◎    ◎
 午後二時半頃、一行はようやくゴイアニア市のレストランChao Nativo1で遅い昼食にありつく。
 ゴイアス州の名物料理が売り物の同店でお薦め料理を訊いたら、「なんといってペキ(Pequi)だ」との答え。直径三センチほどの楕円形をした黄色い実で、鶏肉などとともに炊き込みご飯にすると、独特の風味があって美味しい。
 ただし、黄色い実の中心部には針千本のような種が入っており、「ぜったいに噛まないでください。まわりをこそぐように食べるだけですよ」と店員は注意する。
 その以外には、エンパドン・ゴイアーノという、要は「大きなエンパーダ」も名物だとか。店員いわく「他の州のエンパーダより四~五倍も大きく、中身がいっぱい詰まっているからおいしい」と宣伝する。
 カラーニャという名の川魚を焼いたもの、ちょっとピンタードに似たグルジューバという川魚をココナッツミルクとトマトで煮込んだ料理、いわばゴイアス風ムケッカが同店のお薦めとのことだった。
(つづく、深沢正雪記者)

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