たくさんの出会いに恵まれる幸せ―ふるさと巡り、各地で先亡者慰霊―=連載(6)=ブラジル中央部最大の家電チェーン店 藤岡家、謙虚に〃根〃張った

4月27日(水)

 「本日ご昇天されたジョン・パウロ二世に対して、我々も日本人として、ひとつご起立お願いして一分間の黙祷を捧げましょう」と西本願寺ゴイアス仏教会の八木公雄会長は呼びかけた。
 県連ふるさと巡り二日目の四月二日夜。ゴイアス日伯協会の立派な施設を見てまわった後、午後七時四十五分から会館で、現地先亡移住者のための慰霊祭が営まれ、その時、宗派を超えてローマ法王への追悼も捧げられた。
 読経したのは同仏教会の八木会長ら十人で、三奉請、讃仏偈などが唱えられ、一行は順々に焼香の列に並んだ。その間に会場後方には、同地婦人部らの心づくしの日本食が並び、そのまま歓迎夕食会となった。
 その中には、ブラジル中央部最大の家電チェーン店である藤岡グループ経営者の母親、藤岡初美さん(88、熊本県八代市出身)の姿もあった。
 次男の進さんが十九歳、三男の照夫さんが十七歳の時に最初の店舗を、ゴイアニア市中心部に開け、創業した。「写真を焼いて渡すだけの小さな店だったわ」と同グループの経営を手伝う長女、吉田初江さん(64、二世)は思い出す。現在は従兄弟のタツミさんを加え、三人の共同経営だ。
 藤岡グループにはカメラ、音響、家電の販売店が五十六店舗もある。ゴイアニア市だけで二十五店舗、ブラジリアにも二十七店舗、その他にリオ、ベレン、フォルタレーザ、レシフェなどだ。特に卸売りが多く、「十年前から全伯に売ってる。でも道が悪いから、ノルデステなんかだと商品を配達するのに一ヵ月かかるところもある」と共同経営者の一人、次男の進さん。
 長女の初江さんは「従業員は全部で千七百人。総売上げは言えないけど、そうね、ここ三年連続でゴイアス州の小売り業種中で、一番ICM(流通税)を払ったのがうちの会社よ」と打ち明ける。
 母・初美さんは「貧乏から貧乏で、食べていかれんかと思って心配しておりました」と移住初期を振り返る。十五歳だった一九三二年に父・白石正男さんを家長とする二十四人の構成家族で来伯した。
 最初に入植したのは、ノロエステ線のペナポリスのカフェザルだった。一九四九年にゴイアス州シューリス市へ。父が運送業をやっていたという。長女の初江さんが美容院を開け、弟たちの学費を稼ぎ、家計を助けた。六四年に藤岡グループの端緒となる第一号店の写真館が開く。以来、破竹の躍進を続ける。
 進さんは、「経営にセグレード(秘訣)はない。ただひたすら謙虚に、一生懸命に働くだけ。最初のお店を開いた時は、あまりにお客さんが多くて二時間しか寝られなかった」という。
 同社の特徴は、なんといっても社員教育を重視することだ。「お客さんに満足してもらえるよう、入社して三カ月間は徹底的にトレーニングをします」。しかし、そのおかげで元従業員がそのノウハウを持って独立し、ゴイアニア市やブラジリアで最大の競争相手に成長している。
 進さんは「僕はもう充分働いてきたから、後は早く子どもたちに渡して、将来はテニスでもやって楽しく暮らしたいよ」と笑う。
 そんな息子を誇らしげに見ながら、初美さんは「子どもたちが成功しているのを見ると、昔苦労したことを忘れるね」とつぶやいた。子どもは七人、孫は二十四人、ひ孫は二十人、玄孫も一人生まれた。かくも藤岡家はゴイアスの地に、深く広く根を張った。
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 心づくしの晩餐と楽しい会話は尽きない。午後九時四十分、全員で「ふるさと」を合唱し、そぼ降る雨の中をホテルへ戻った。
(つづく、深沢正雪記者)

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