たくさんの出会いに恵まれる幸せ―ふるさと巡り、各地で先亡者慰霊―=連載(7)=知日の砂絵画家を訪問=旧ゴイアス市=200年変わらぬ町並み

4月28日(木)

 ふるさと巡り三日目、四月三日朝、百三十万人都市、ゴイアス州都ゴイアニア市の五星ホテルだけあって豪華な朝食の後、一同がロビーでたむろしていると、テレビや新聞で見慣れた顔のブラジル人が見える。
 「誰だっけ」と小声で噂しあうも、悲しいことに名前が出ない。その人物がさっさとタクシーで出たあと「あっ、ジェヌイーノだ。PT党首だよ」と気付く。参加者の一人は「一緒に写真撮っとくんだった」と悔やむ。
 午前七時半、世界遺産の町ゴイアス・ヴェーリョ(旧ゴイアス)へ向け、百四十一キロを一路北上。
 通る町々で肉屋の軒先に網を張った籠が吊るし、干し肉を作っている。これが伊豆なら、さしずめ「アジの開き」だろうが、ブラジル内陸部だけに冷蔵庫が普及する以前からの食習慣としてカルネ・デ・ソウを作る文化が残っている。
 午前十時、旧ゴイアス入り口のガソリンスタンドで休憩。Cajazinhoという果物ジュースが売られているので飲んでみる。一レアル。オレンジ色で、カランボーラを濃くした風でけっこう美味。
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 この旧ゴイアス市の人口はわずか二万八千人。二〇〇一年十二月にユネスコから世界遺産に指定された古都だ。元々はバンデイランテスが拓いた町で、一七二七年にサンパウロ県の一部として市制がひかれた。金の採掘など十八世紀中頃が最も栄え、以来百八十八年間この町が州都だった。
 谷間という地形の問題もあり、手狭になったとの理由で、現在のゴイアニア市へ遷都する政令が一九三三年に調印された。以来、七月二十四日から二十七日だけはこの町が州都に戻り、州知事が来て執務する不思議な習慣が行われている。
 幾つかの教会を中心に、石畳の道路に一階建ての住宅という二百年来変わらない町並みが続く。町中心部を川が流れ、周りを山に囲まれている。
 一号車一行が最初に向かったのは、今年で九十歳を迎え、独特の砂絵技法を使った淡い色調の風景画で有名な画家、ゴイアンジーラ・ド・コウトさんの自宅兼資料館だ。
 近隣のセーラ・ドウラード(黄金山脈)で採取した砂や岩石を砕いて、五百五十一色の砂画材を作り、絵に貼り付けていく。「全て自然の色なのよ」と本人が出てきて説明する。最初に鉛筆で下絵を描き、ノリをつけて砂を置き、指でこすって混ぜ、イメージに合う色に調整する。
 アメリカ、日本はもとより世界数十カ国で注目されており、現在でも四百点もの注文があるという。「私はプロじゃないから、空いた時間にやってるの」とあっけからん。現役時代はポ語や歴史の教師で、その年金で生活している。
 三百年近く前、バンデイランテスたちは砂金を探してこの町へやってきたが、彼女はそれを絵に使わない。「黄金山脈には、その名の元になった黄金色の砂がある。砂金よりも綺麗なのよ」。九十歳になるとは思えない大きな身ぶり手振りで熱っぽく語る。
 「そうそう、私はこの町で最初の世界救世教信者なの。その関係で日本にも行ったことあるわ。ずいぶん昔の話だけど」と意外な経験を語る。ずいぶん東洋人街から離れた場所に来た気がしていたが、ここにも知日ブラジル人がいるかと思うと一気に精神的な距離が縮まる。
 続いて一行は一七九〇年に作られた教会Igreja N. S. da Abadia、女性詩人コーラ・コラリーナの生家を訪ねた。ふるさと巡りの一団は三十数人ずつ三グループに別れ、小古都を探索した。
 「気が付いた? 町中の人が、いま止まっているわ。こんなにたくさんの日本人を見るの初めてだもの」と地元ガイド、エジナ・シャビエルさん(29)は笑った。
 「普通これだけの人数のガイドをすると、絶対に勝手な行動をする人が現れたり、不平不満を言ってくる人がでるけど、今回だけは特別。日本人はとても規律正しく、落ち着いているので驚くわ」。
(つづく、深沢正雪記者)

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