たくさんの出会いに恵まれる幸せ―ふるさと巡り、各地で先亡者慰霊―=連載(9)=「僕には信用しかない」=平松さん無借金、続々アパート建設

5月3日(火)

 一九九五年九月、ゴイアス州カウダス・ノーヴァス市で、デカセギ資金を元手に土地を買って不動産開発を始めた平松章夫さん(49、二世)。まわりのブラジル人は「あのジャポネースは頭がおかしい。そんな簡単に売れるわけがない」といって笑ったが、平松さんはアパート建設図面とモデルルームだけで、一週間で八軒も売った。
 それから二年後、十階建て(延べ床面積五千八百平米)のアパートは立派に完成した。アパート六十四軒、事務所三十七部屋を売り出し、ほぼ完売。建設費は百万レアルかかったが、アパート購入者の払うお金で支払うことができた。
 「銀行からは一レアルも借りていない。好きじゃないからね」と笑う。今でも最初にアパートを買ってくれたブラジル人女性のことが鮮明に記憶に残っている。
 「そのご婦人は言ったんだ。『あなたは初めてなんでしょ。建物が完成するって、誰が保証してくれるの?』ってね。僕はドキドキしたよ、何って言っても初めてのことだから。ご婦人の目をじっと見つめて僕は言ったんだ。『私を信じてください。信じないなら小切手を返します』って。そして五千レアルのシェッキをつき返した」。
 「本当は、すごく重い質問だった」。平松さんはその時の情景を思い浮かべた。「結局、そのご婦人は言ってくれた。『あなたを信用するわ』とね。その四十日後にはもう一軒買ってくれたよ」。
 「だから僕には信用しかないんだ。今では、この町でアキオって言えば誰でも『あいつは正直者だ。必ず金を払うガランチードな奴だ』って言ってくれる」
 〇一年、一番目を建てた資金を元手に、同市のセントロ地区に二棟目のアパート建築を開始した。十一階建てで延べ床面積七千七十平米。アパート六十軒の大半はすでに売れた。サンパウロの人が休暇を過ごすために買っていくという。
 好調に売れた第二棟で得た資金を使って、この七月には三棟目を売り出し始める。冬になり、湯治客がいっきに増えるからだ。デカセギ版〃わらしべ長者〃の頼もしい話を、目を細めながら聞いていた、ふるさと巡り参加者の小山徳さんは「羨ましいね。同船者が成功した話が聞けてとても嬉しいよ」と二十年ぶりの再会を喜んだ。
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―多民族プールではしゃぐ秋暑し―
 一行の一人、十四歳で渡伯したモジ在住の名越つぎ代さん(86、北海道出身)は、カウダス・ノーヴァスのリゾートホテルの様子をそう詠んだ。
 「二十八年前に来た時は、日本人のホテルに泊まった。あの頃から考えれば、びっくりするぐらいこの町は大きくなった」と感慨深げだ。
 ホテルには幾つもの温泉プールがあり、参加者は思い思いに旅行中日の休日を楽しんだ。
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 市内観光ツアーも行われ、マギダ・モファット市長が自宅横に作ったジャルジン・ジャポネース(日本庭園)、ラゴア・ケンチ・クラブなどを見学した。
 このラゴア・ケンチ(熱い池)には珍しい発見談がある。一七七七年、エメラルドや黄金を探しにきたバンデイランテス(遠征隊)のバルトロメウ・ブエノ・ダ・シウバとマルチン・コエーリョが、ここでキャンプを張ろうとしたら、犬が泉に落ちてキャンキャン鳴いたことから温泉が湧いていることが判ったという。その情景を模した銅像が泉の横に設置されている。
 「そうやって、世界で初めてカショーホ・ケンチ(ホット・ドッグ)ができたわけですね」と伊東信比古さんが冗談を飛ばし、一行は爆笑の渦に飲まれた。
 源泉の近くに、同市で一番温度が高いお湯がでるという「ゆで卵の穴」という名所もある。どことなく、伊豆箱根の大桶谷の温泉卵みたいで親近感がわく。
(つづく、深沢正雪記者)

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