たくさんの出会いに恵まれる幸せ―ふるさと巡り、各地で先亡者慰霊―=連載(10)=ピンガつくる誇りを〃聴講〃=温泉町に創業40年余の老舗

5月4日(水)

 カシャッサには頭と心臓と尻尾がある――。
 ふるさと巡り一行は、ゴイアス州カウダス・ノーヴァス市の市内観光ツアーでカシャッサ(ピンガ)を製造販売するVale dos Aguas Quentes社も視察した時、同社の製造技師のアギナウド・ゾンジーニさん(40、イタリア系)はそう語った。
 甘い匂いが漂う蒸留所で、一行は熱心に話しを聞く。「カシャッサは九十度で蒸留する」。最初に蒸発する部分をカベッサ(頭)といい、一番美味しい部分をコラソン(心臓)、最後の部分をカウード(尻尾)と呼んでいる。
 「カベッサはアグレッシブ(刺激的)な味なので捨てる。カウードもカスなので美味くない。一番良いのはコラソンだ。例えばスコットランド・ウイスキーも蒸留酒だが、やはりこの部分だけを使う。全体のほんの一〇%ぐらいしかないんだ。残念ながら、残りは捨てることになる」。
 同社の正式な創立は六年前だが、それ以前は家族経営で四十年以上やってきた。昨年十二月にサンパウロ大学主催のコンクールに出品し、見事銀賞を得た。五百ミリリットルで十~十五レアルと決して高くないが、この店でしか売っていない。
 「僕らはビンに寝かせたものはエヴェリェシメント(熟成)と認めない。一般には樽で一年寝かせるとそういうだが、僕らは必ず二年以上寝かせる」との哲学を頑なに守っている。
 最上級「シニア」の樽には、ウイスキーと同じ、欧州から輸入したカルヴァーリョ(オーク材)を使う。二番目「オウロ」には国産材ウンブラナ、三番目「プラッタ」はやはり国産ジェキチバだ。「国産の木だと無色透明になる。実にニュートラルで、色、香りもつかない」という。
 「スーパーで売っている工場のは、あっという間に生産できて安いが、口当たりが強いだけで味わいがない」。彼らが作るカシャッサは「樽で二年寝かせると指四本分がなくなる」という時間をかける。口に含んだ時に広がるまろやかさは明らかに別物だ。
 現在、五年から八年物の最上級「14BIS」を売り出す準備中だ。「大量生産でなく、いい酒を造ることに拘りたい。だから輸出する話も全て断っている」。
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 ふるさと巡り五日目、四月五日昼、一行は四百二十七キロ離れた〃靴の都〃サンパウロ州フランカ市に向けて出発した。
 参加者の森岡忠夫さん(75、ピラール・ド・スル在住)は、ゴイアス州モンチ・アレグレに八百アルケロンの牧場を持っている。現在は息子に任せているが、五年ぐらい前まで「毎月、自分で車を運転して通っていたけど、仕事ばっかり。今回行ったような場所は全然知らなかった。いろいろ見学できて良かった」という。
 夜八時過ぎ、ようやくホテルへ到着。さっそく夕食をとるレストランへ。地元のフランカ地域日伯協会(工藤シゲオ会長)役員らと合流した。同市は三十一万都市だが日系人は三十家族しかいないという。
 「いや~っ、十何年振りだな」。「痩せて美男子だったのにな」と大笑いしながら握手するのは、北海道協会の谷口出穂前会長と、フランカ同協会の南原光洋前会長(46、二世)だ。南原さんは北パラナのアサイ出身で、七三年にカフェ栽培をするために来た。
 八二年当時、南伯産組中央会で農業指導部長をしていた谷口さんの下で、南原さんは農業技師として働いていたという縁だ。
 和田一男さん(80、二世)=ソロカバ在住=も丸紅コロラードに勤務していた時代、八五~八七年までこの町に住んでいた。普段はとてもおっとりした和田さんだが、懐かしさの余り顔を紅潮させ、再会を喜んだ。
(つづく、深沢正雪記者)

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