たくさんの出会いに恵まれる幸せ―ふるさと巡り、各地で先亡者慰霊―=連載(13)=旅の利点、知り合いが増えた=フランカの懇親会=草分けも顔見せる

5月7日(土)

 ふるさと巡り六日目、四月六日晩、地元のフランカ地域日伯協会や市長ら来賓との懇談会の乾杯の音頭をとったのは、同地日本人最高齢の南原勇男さん(84、福島県)だった。勇男さんの娘と花柳龍千多さんの弟が結婚している関係でこの日、北海道協会に立派な臼が寄贈されていた。
 一九四二年のあらびあ丸で渡伯した勇男さんは、当初モジアナ線のセルトンジーニョ近くのカフェザルへ入植し、続いてバウルーで二年綿作りをしてからアサイへ行った。そこで子ども七人を生み育て、フランカへ移って三十二年になるという。
 人生で一番楽しかったのは、去年九月七日に結婚七十周年パーティをやってもらったこと。「家族親族、子どもらが百五十人も集まってくれて本当に嬉しかった」という。
 一九四六年に千代喜さん(ちよき、82、岩手県)と結婚したのを記念して、子どもたちが九六年に金婚式をした。「あの時に息子にプレゼントしてもらった日本式の池が、今までで最高の贈り物だった」という。その池には大小二百匹もの鯉が泳いでいる。
 その日、フランカ日系人の先駆け、マエガワ・ノブヨシ・ワシントンさん(77、ミナス州サクラメント市生れ)も姿を見せた。父マエガワ・ハチロウさん(当時16、熊本県)と母同タカノさん(当時13、福岡県)の来伯は一九一三年だという。一九四四年五月に当地に移転してきた。周りに日本人が居なかった関係もあり、ワシントンさんはまったく日本語をしゃべらない。
 「母はいつも言っていた。『子どもには遺産より学歴を残したい』とね」。ワシントンさん本人は小学三年までだが、八人いる子どもはその言葉通り全員大学卒だという。
 「日本には一回も行ったことない。日本人の顔をしていても日本語しゃべれないから、あっちいったら恥ずかしいだけ」という。孫は十五人、フランカの地に広く根を張っている。
 午後十時過ぎ、サクラ旅行社の引率、戸田エリオさんの「最後の〃ふるさと〃を歌いましょう」との掛け声で、一同は惜別の思いを込めて歌った。今までで一番大きな歌声だった。
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 最終日の朝、きれいに晴れ上がった空の下、バスを待つ一行は、おのおの胸に旅行の思い出を秘めていた。
 パラナ州ゴイオイレ市で大農場を経営する岡本正博ビセンチさん(75、アルバレス・マッシャード生れ)は「本当にいい旅行ができた。色々な人と知り合いになれた」と喜ぶ。昨年のふるさと巡りで北パラナを回った時は見学される側だったが、今回は参加者としてきた。旧ゴイアス市の砂絵に最も感銘を覚え、「ぜひ絵を頼もうかと思っています」という。
 両親が熊本県出身で一九二六年頃来伯したという岡本さんは、大豆だけで七千ヘクタール、サトウキビは二万ヘクタールも栽培する。パラナ州には一万二千ヘクタール、バイーア州には十七万ヘクタールの農場を持つ。自動車燃料用アルコールだけで四千万リットル生産し、従業員は二千四百人を数える。
 「日本にエタノールを輸出するなら、ある時は損してでも約束した量を送らなければならない。こちらはちょっと悪くなったら止めちゃう傾向があるから、その辺の商習慣が難しいと思う」と語った。
 車椅子で参加した及川君雄さん(68、岩手県)=アチバイア在住=はゴイアニアの日系団体が見事に世代交代して成功している様子が最も印象に残った。「日系人が日系以外と結婚して、あっちへ行ってはだめ。こっちに呼び込んで大きくなっていけば、世代が交代してもどんどん裾野が広がる。世代交代の大切さを目の当たりにしました」と述懐した。
 午前九時前、一行を乗せたバスはサンパウロ市に向け出発した。
(つづく、深沢正雪記者)

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