コラム 樹海

 日本は今や焼酎ブームだそうだ。麦や蕎麦に始まって薩摩芋もあれば熊本の米焼酎人気も高い。沖縄の泡盛は、甘薯で醸造するものとばかり思っていたけれども、あれはタイの米を発酵させるものだという。3年以上も貯蔵した古酒を沖縄では「クース」と呼び高級酒として珍重され盃を重ねるにつれ蛇皮線と踊りの登場となる▼熟年組としては焼酎との縁はあまり深くない。その昔―。探検と称し浅草の山谷を彷徨し酎ハイというのを飲んだがコップ一杯が15円だったと覚えている。戦後には「粕取り焼酎」というのが流行したが、とても日本酒には及ばない。それが酎ハイや湯割りと愛好家は広がる。知人の薩摩健児から焼酎に燗をつけるものだと急須を平べったくしたような土瓶を頂戴したが、これが使い安くてもう手放せない▼蒸留酒の起源もあまりはっきりしない。元々は5世紀にアラブで開発され13、14世紀になるとアジアに製法が伝わる。その後15世紀頃になってから東南アジアと交易が盛んだった琉球王国にシャム国(現在のタイ)から伝来したとされる。だから泡盛は「元祖・焼酎」なのである。ここから薩摩や宮崎などに技術が伝えられたと見たい▼鹿児島の焼酎は薩摩芋で造るが、これにも歴史がある。漁師・前田利右衛門が1705年に沖縄から種芋を持ち帰り痩せ地に植えたところ大豊作となる。これが農民を飢えから救い栽培が広がり利右衛門をまつる徳光神社は今も尊敬されている。あの種芋から300年―。焼酎が日本列島を支配するのも、なにやら因縁めくではないか。  (遯)

05/6/14