コラム 樹海

 瓢骨に「ブラジルの初夜なる焚火祭かな」がある。上塚周平は笠戸丸移民の監督としてブラジルに渡り「移民の父」と尊敬される人物であり瓢骨は俳号。この句は日本移民がブラジルに来て初めての発句とされるのだが焚火祭を使うなどはなかなかのものである。6月はフェスタ・ジュニーナなので祭りで明け暮れる忙しい月なのだ▼近ごろは火災の危険があるとかでサンパウロでは禁止されてしまったが、今頃になると火を灯したバロンが真っ暗な夜空に浮かぶのは詩情が溢れ寒い冬の訪れを告げる風物であった。今年は少し暑い晩秋だったけれども、夜になると冷えが厳しくなってくる。そこで登場するのが、フェスタ・カイピーラなどの「ケントン」である。ピンガに生姜や肉桂と砂糖を入れ水で割り火で暖めたもので―これ1杯で夜空の寒気もすっ飛ぶ▼そして―焚火となるのだが、これは豪放な火遊びと云っていい。小さな薪を数本並べて火を点けるのもあるが、地方に行けば装置も大掛かりでとても子供らの手には負えない。サンパウロ州ではプ・プルデンテ市に近いピラポンジンニョの焚火祭りがよく知られる。もう10年ほど前になるのだがそのときには長さ20数メートルの薪を四角に組み高さ50メートルの塔を造り点火しての大祭りだったそうな―▼これは24日のサンジョアン祭りに行うのだが、花火もあるしケントンに浮かれて踊りを楽しむと若い人たちは額に汗する。笠戸丸がサントスに着岸するやいなや―この焚火祭りを詠んだ瓢骨の才はもっと評価されてもいい。きよう21日からブラジルは冬。 (遯)

05/6/21