野良犬・野良猫に=〃温もり〃を贈る=――深夜カート曳く日系中高年女性

6月24日(金)

 毎朝午前二時半に起きて、カートを引く。といっても、生活のために廃品を拾って歩くのではない。運んでいるものは、ペットの餌。リベルダーデ界隈を歩いて、野良犬や野良猫に餌を与えているのだ。すっかり冬めいてきたサンパウロ。底冷えのする深夜に、日系人女性(匿名希望)が飼い主のいない動物たちに、ささやかな〃温もり〃を届けている。
 二十二日午前六時三十分すぎ。夜が明け始めた。冬至(二十一日)の翌日であるこの日、〃北風〃が吹き、寒い一日になりそうな予感だ。初老の日系人女性が、ガルボン・ブエノ街のあるバールで立ち止まった。一仕事終え、トイレを借りるところだという。
 全身使い古した服装に、荷物がたくさん積まれた手押し車。一見、浮浪者と見間違えそうだ。身長百五十センチほどの華奢な体で、引っ張るには辛そうにもみえる。
 数々袋の中にはラッソン、パン、水、古新聞などがきちんと仕分けされて、びっしりと詰まっていた。
 「一つだけでなく、あちこちの場所を回って、餌を置いてくるので結構重くなってしまうんです」。寒さを防ぐために首から上は、フードを被っている。口元から少し、笑みがもれた。
 動機を尋ねると、「もちろん動物が好きなんだけど、やっぱり野良犬や野良猫が可哀想だと思って」とさらりと言ってのけた。
 女性が深夜に一人で歩く危険も顧みず、外出するぐいらだから固い信念を持っているのだろう。母親や姉の反対を押し切ってやっているくらいだ。
 「大げさに書かれたら、困ります」。取材は受け付けず、自身について多くは語らなかった。
 餌を与えた後、しばらくしてまた元の場所に戻るのが習慣だ。
 二巡目は周囲を箒ではき、散乱した食べ残しを集める。野良犬などが増えて、景観が損なわれるのを嫌う住民がいるからだそうだ。自身の足跡は、できるだけ残さない。「毒を盛られることだってある」と切ない表情を浮かべた。
 バールで小休止した後、再びコロの音を響かせながら次の仕事場に向かった。