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短歌で1日=「命の洗濯」=参加60人=ほとんど80歳以上=全伯大会=それぞれの思い胸に集う

2005年9月14日(水)

 今年で五十七回目となる全伯短歌大会(椰子樹社、ニッケイ新聞社共催)が十一日午前九時から、文協ビル内エスペランサ婦人会サロンで行われた。今年は約六十人が参加。ほとんどが八十歳以上となった。年々、高齢化に伴い参加人数が減少していく中でも初参加者は六人。椰子樹社代表の安良田済さん(89)は「一口に五十七年というがこれは大変なもの。短歌は健康法の一つ。だから短歌大会を命の洗濯場として解釈して頂いていい。喜び、幸せの輪を作って一日明るく楽しく過ごしてください」と挨拶した。
 共催者挨拶は、画家でもあるニッケイ新聞社代表の中野光雄さん。「短歌が絵を描くきっかけとなった。歌が浮かんでそれが絵になる」と述べた。
 物故緒先輩に対して黙祷を捧げ、清谷益次さん(89)に感謝状が贈呈された。清谷さんは第一回目から同大会に出席。一九三八年に創刊された短歌誌『椰子樹』の代表や同大会代表者も務めた経験を持つ。「今年も皆さんの元気な姿を見て無常の喜びです。自分なりに一生懸命十四歳から短歌に携わってきただけだから、賞を頂くことは、身体から火が出るほど恥ずかしい」と話した。
 参加者は「早春」という題で歌を詠んだ。その後、以前から募集されていた二百二十八作品の成績発表が行われた。その中で見事代表選一位に輝いたのは小野政子さん(83)。「皆様に会えるのが楽しみで短歌をしている」と笑顔を見せた。
 また、七月十一日に秋田県人会館で選考委員らによって選考された第三十六回岩波菊治短歌賞佳作作品五点が発表された。独楽吟競泳では「夕やけ」と「頭垂れゐつ」を使用した短歌を考えた。その後、毎年恒例の記念撮影を行った。
 午後からは、代表選者十九名が自選歌、一般高点歌、代表選高点歌の大会作品各二首を批評、鑑賞した。参加者は熱心に聞入ってメモを取る姿も見られた。九十一歳と最高齢者の井垣せつさんは「ぼけないように短歌始めたけど、楽しいよね、年だけは負けないよ」と笑う。「短歌の勉強をすると日本の歴史がよくわかるよ」と言うのは参加二十一年目の酒井祥造さん(78)。「農民でさえ短歌を詠んでいたことに驚いた。文化的にも日本は馬鹿にできない」と話した。
 また、アベック歌合せも行われ楽しいひと時を過ごした。初めて参加した神林義明さん(69)は今年二月から短歌を初めた。「会に参加して雰囲気がよかった。皆、辞書を引いたりして熱心で驚いた」と感想を述べた。
 第一回目に参加した時は十九歳だったと言う阿部玲子さん(75)は二世だが、父母が歌人だったため、十七歳から短歌を始めたことによって日本語を覚えた。「長いこと短歌をしていると、自分の人生の歴史が短歌を見てわかる。いつか自伝のような短歌集を出したい」と抱負を語った。
▽大会成績結果(各一位)
▽代表高点歌
「拡大鏡にて読む新聞がこれの世の窓の明かりぞひとりし住めば」小野政子
▽互選高点歌
「吾よりは先に逝くなと病む妻を看取りつつ聞く夜の蟋蟀」米沢幹夫
▽題詠
「早春の梅の花満つ故里へ妻の望みし分骨おさむ」猪俣靖子
▽独楽吟詠
「夕茜浴びて帰りの畑の路稲の穂重く頭垂れゐつ」藤田あや子
▽アベック歌合せ
「淡雪のとけるにも似てつかのまを許されぬ恋をたしかめており」上の句・田口愛子 下の句・渡辺光

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