ボリビアでJICAが支援活動=出産ケア向上目指して=連載(下)=医療施設の連携重要=ブラジルの成功例も参考

2005年9月20日(火)

 連邦政府保健局、州保健局、JICAが三位一体となり、ブラジル・セアラー州の母子保健改善を目的に立ち上げた「光のプロジェクト」。九六年から五年間にわたって、保健従事者の能力向上に貢献した。
 対象地区となったフォルタレーザ市を中心に今年七月、ボリビア人医師二人が研修を受け、レベルの高い母子保健を地元に繋げようと努力している。
 「管理が行き届いていて、グループでの仕事が素晴らしかった」
 柔和な笑顔でラウル・エスコバル医師は、研修での印象を話す。同じく参加したカレン・ケンタ医師もそれを強く感じたという。
 二人によれば、ボリビアでは患者や産婦の情報が管理されておらず、診療に当たった医師しか認識できていない状況だという。
 ブラジルでの医療施設同士の連携の強さを感じ、「地元でそんな環境を作っていければ」と表情を引き締める。
 二人が勤務するのは、「EL TEJAR」保健センター。ラパス市内にある五つの保健センターの一つで、標高四千メートル近くにある。エスコバル医師が責任者を務める。
 二十一人の医療関係者が勤務、全員が「FORSA」の企画する研修に参加している。七人の医師、超音波専門家、七人の准看護婦のほか、大学からなどの実習生も受け入れている。 九三年に開設。九六年まで出産を行う施設はなかったが、現在では産婦人科、内科、小児科、外科に対応する二十四時間体制の保健センターである。
 出産は月平均十から十八を扱う。受付には現在二人が力を入れる「母親学級」の時間割りが張られている。エスコバル医師によれば、毎日問い合わせがあるという。
 ボリビアでは出産までに産婦が医師と面会する回数が平均四回と少ない(日本は約十回)。カレン医師は「(ブラジルのように)もっと個人的な付き合いを続けるなかでよりよい形で出産ができるのでは」と考えている。
 時には、産婦たちが嫌悪感を抱く病院を見学することも。「出産までの精神的な準備期間とも考えている」(カレン医師)
 夫が母親学級に付き添う姿も最近みられ、「以前にはなかった」と驚くエスコバル医師は、家族や周囲の理解を得はじめている、と見る。
 「EL TEJAR」はハードの面でも変わり始めている。間接照明を使い、以前はなかったカーテンも取りつけ、産婦がリラックスできるように優しい色合いのものを選んだ。
 「以前は考えもしなかった」という暖房器具も購入、音楽をかけることもある。
 「光のプロジェクト」とブラジルの医療器具会社が共同開発した、フリースタイルで出産が可能な分娩台も最近設置。「従来の分娩台を使う予定はもうない」(エスコバル医師)
 最近では、他地域の保健センターにも協力。医療知識の共有や産婦への対応改善の見地から「医療関係者との関係構築が必要」と声をそろえる。
 現在、二人が責任者となり、問題や目的に基づいた計画を作成、ケア向上のため、実行に移している。
 ボリビアは九六年に保険省令〇四九六号がWHOの正常出産の勧告を取り入れ、科学的根拠に基づく出産ケアのガイドを作成しているが、現場での改善は遅々として進まないのが現状。
 そんななか、ソフト面での技術提供が同国の母子保健レベル向上に繋がることを関係者は願ってやまない。おわり
     (堀江剛史記者)

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