JICA青年ボランティア リレーエッセイ=最前線から=連載(13)=東 万梨花=トメアス総合農業協同組合=ブラジル人から学んだ逞しくなる秘訣

2005年9月29日(木)

 とあるブラジル人の友人の家にお邪魔したときのこと。
 木造は当たり前で、屋根は瓦が置いてあるだけ。強い風が吹いたら一発で倒壊しそうな弱々しい家が目に入った。家の前には不燃性のガラクタが沢山置いてあった。最初見たときは衝撃的で、思わず「あなたの家?」と聞いた。
 他の友達の家は更に凄かった。トイレは便器が無く、掘ってあるだけ。電気がないので夜は感覚でするしかない。
 台所は流し台がなく、排水路なんてあったもんじゃない。調理場が若干斜めにしてあり、家から水が排水されれば良いだけといったシステム。家の前に流れた排水はヘドロが浮いているが、魚が泳いでいたのはびっくりした。
 そのような家で、掃除・洗濯・料理を難なくこなす十六歳の女の子は、パスタ・ご飯・フェイジョン・お肉の基本セットを段取り良く作り、振舞ってくれた。
 それ以来、私は街の中を色々見回すようになった。レンガの家と木造の家、どちらが多いか分からないが、目に付くのはやはり木造の家。つまり、最初に衝撃を受けたような木造の家にみんな普通に住んでいるのだ。
 又、今までに一度だけ同じ年頃の男性と給料の話になったことがある。こちらから特に聞いたわけではないが、教えてくれたその額に思わず息を呑み、我々が置かれている立場が何て贅沢であるかということを改めて痛感した。正直自分が嫌になった。
 そんな彼らであるが、「そこまでしなくて良いよ」と思うほど心底優しい。その優しさは良い感じで身に沁み、時々忘れてしまう〃優しさとは何か〃を思い出させてくれる。
 そして、何でも作り出すのが上手で、腐れたような小屋を改造し、自分たちの遊び場に変えた。その小屋にしばし集まり、飲み食いするようになった。
 風通しがとても良いのでうつらうつらとハンモックでお昼寝したり、CD聴いたり踊ったりと、どれもこれもお金のかからないことだが、私はその空間をとても気に入っている。
 小屋にはコンロがない。あわてなくても大丈夫、アルコールや木炭を使用。最近では十分な炊き出しもできるようになった。
 ある日食べたフェイジョアーダは、湯がいている肉の中に蟻が大量に浮いていたが、出来上がる までに取り除いてくれたらしく、とても美味しかった。
 その他の逞しさといえば、ビールの栓を歯で開けたり、ゴキブリを素足で潰したり……。
 肌の強さや体力など、どうしても追いつけない部分もあるが、自分の脆さが恥ずかしくなった。私も含めて、大体の人はお金が無くなることに恐怖を感じる。でも、彼らはお金が無くなってからの勝負にめっぽう強い。
 日本では典型的な住宅都市に育ち、極普通のサラリーマン家庭。はっきり言って甘い生活をしてきたと自分でも思っているし、それが何となくコンプレックスだった。そんな甘い生活からは出すことのできない優しさ・強さ・そして自分に無いものを持っている彼らを尊敬している。
 高収入を得て、ないものはお金で解決するというより、ないものを工夫して作り出していくことに魅力を感じる今日この頃である。
   ◎    ◎
【職種】食品加工
【出身地】福岡県春日市
【年齢】25歳

 ◇JICA青年ボランティア リレーエッセイ◇

JICA連載(12)=森川奈美=マリリア日系文化体育協会=「笑顔の高校生達」

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JICA連載(8)=加藤紘子=クイアバ・バルゼアグランデ日伯文化協会=日本が学ぶべきこと

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JICA連載(6)=清水祐子=パラナ老人福祉和順会=私の家族―39人の宝もの

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JICA連載(4)=相澤紀子=ブラジル=日本語センター=語り継がれる移民史を

JICA連載(3)=中村茂生=バストス日系文化体育協=よさこい節の聞こえる町で

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JICA連載(1)=関根 亮=リオ州日伯文化体育連盟=「日本が失ってしまった何か」