皇居勤労奉仕がもたらした幸運=リヤカーの新タイヤ確保=イツーの熊野さん「夫への最高の土産ができた」=48年前移住時携行した=〃愛車〃がよみがえる

2005年9月29日(木)

 去る五日から九日まで皇居で行われた勤労奉仕に参加したサンパウロ市近郊イツー市に住む熊野重子さん(六八・香川県出身)が、永年の念願だったリヤカーの新しいタイヤ二本を購入することができた。「ブラジルで待っている夫へのいい土産ができた」と顔を紅潮させていた。(東京から渡辺忠さん通信)
 重子さんは夫の新一さん(七八・香川県)と一緒に一九五七年にブラジルに移住した。その時にリヤカーを持ってきた。
 重宝していた運搬用具だったが、年月の経過と共にタイヤがすり切れて使えなくなってしまった。日本製リヤカーの規格に合うタイヤはブラジルでは入手できない。妹や息子が訪日した時に探してもらったが、購入することができなかった。
 日本でももうリヤカーのタイヤは無いのだろうか、と思いつつも、車体は頑丈なので、どうしても新しいタイヤが欲しい、という重子さんの目に、皇居で天皇陛下お田植えの場所にあったリヤカーが映った。宮内庁の担当者が、ブラジルからの勤労奉仕団一行三十二名を案内している途中のことだった。
 重子さんの心に衝撃が走った。担当者に「リヤカー物語」を説明して、新しいタイヤが欲しい、と懇願した。突然のことなので、困惑した担当者は「今、日本ではリヤカーのタイヤは市販されていません。」と返事をしたものの、重子さんの熱意に、「入手できる方法があるかどうか調べてみましょう」、と約束をした。
 夕方、勤労奉仕作業を終えてホテルに戻る準備をしていた重子さんに担当者
(宮内庁庭園課の平松勝さん)が朗報を持ってきた。「皇居の近くに小さいな自転車販売店があるそうです。ご注文をいただければ、製造元から取り寄せることができます、とのことです」という知らせだった。そして、自転車販売店の電話番号と住所と地図を添えた一枚の紙を重子さんに手渡した。
 結果、重子さんは永年の念願だった新品タイヤ二本を購入することができた。消費税を含めて、二本で約九千五百円だった。「主人に最高の土産ができました。本当に嬉しい。勤労奉仕に参加することができたことを感謝しています」という熊野重子さんの顔は輝いていた。
 天皇・皇后両陛下からも温かいお言葉をいただく栄誉にも恵まれ、人生最良の四日間だったに違いない。