「マリード夫は非日系ブラジル人」=移住して改めて〝日本人〟を意識=連載(5)=夫婦で日本文化伝承活動=藍さん=教えたい「日本にもうサムライいない」

2005年9月29日(木)

 「日本文化をブラジル社会に伝えたい」と、夫婦で文化伝承活動を行っている田中藍さん(28)は現在、サンパウロ州クリスタイス・パウリスタ市に住んでいる。部屋のいたる所に陶器や日本の絵が飾られている。夫のアリエル・シャロンさん(26)は、同市のスポーツ文化観光局長を務める。その傍ら、夜はフランカ大学で商業貿易を専攻する学生でもある。
 「本当に忙しい。夫は朝仕事に行って、夜は大学へ。授業後に会議があって帰宅するのは夜中の十二時をまわることもしょっちゅう」。シャロンさんは教育・社会福祉に携わりながら活動する学生中心のNGO団体「SIFE BOC」のフランカ支部代表でもある。同団体は、フランカ日本人会とともに、二〇〇四年四月には同市内で初めての「アジア・ウィーク」も開催した。活動を手伝った彼女も「こっちに来て、茶道について説明しろ、と言われて困ったことがある。やっぱり日本人だということを意識して、日本文化に関する活動に関わるようになった」と言う。
 「今はブラジルのノベーラにはまっている」という田中さんは、来伯当初、夫の実家のペルナンブッコ州ペトロリーナに住んでいた。「ロバの荷馬車がいっぱいいて衝撃が強すぎた。私は都会っ子だったから、土を触るのも嫌で自然を受け入れられなかった」と当時を思い出す。「ストレス発散したくても日本みたいにカラオケとかない。日本に帰った時には本を買いあさってそれを船便でブラジルに送ってた」。
 「やっぱり旦那の仕事を支えるのは大変。けど、もう今は慣れた。苦労は買ってでもした方がいい」と泣きじゃくる子どもをあやしながら話す。夫とはカナダに留学中に知り合った。そのため、家での会話はほとんどが英語。しかし、「日本が大好き」と言うシャロンさんは、日本語も少し話す。十七歳の頃にカンフーを習い始めた。先生は親から日本のしつけを受けた日系人。有言実行することや礼儀作法などを学び、「今まで悪い子だったけど、目上の人を敬うようになった」と言う。
 「カナダにいる時から、喧嘩しても、夫は絶対にごめんって謝らなかった」。田中さんは「謝る」という日本の習慣を教えた。その後、彼が「苦戦した」と言うクリスタイス・パウリスタ市の選挙活動の時に「ごめんなさい」、「ありがとう」を礼儀正しく言うことで、市民が「不思議だけど少しずつ受け入れてくれるようになった」と話す。
 「ブラジルに来て大変な人がいっぱいいることを知って、小さいことでくよくよしなくなった」と言う田中さん。「日本文化伝承活動は子どものためにもしたい。一人では日本のことを教えられないし」と話し、「ブラジル人は日本の事をわかっていない。まだ、サムライがいると思っている人もいる。日本人会に入りたいというブラジル人もたくさんいるし、勘違いされている日本のことをちゃんと教えて、興味を持つきっかけになってくれれば」と期待を述べた。         つづく   (南部サヤカ記者)

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