特別寄稿=連載(10)=日伯学園建設こそ=100周年事業の本命=コロニアの現状分析と意義=全伯モデルとしての意義

2005年11月1日(火)

 日本語・日本文化普及のモデル・センターとしての「日伯学園」
 前述の日伯学園検討委員会においては、学園は既存の日語校と競合しないよう考慮すべきとの意見も多数あったが、競合するような次元の学校を考えているのであれば、そのような学園を建設する意義はまったく存在しない。
 「日伯学園」は上述したような日本文化をブラジル社会の中に浸透させ普及して行くためのものであり、既存日語校のモデル校・実験校ともなるべき学校であるべきなのである。
 ドイツ系社会においては上述の如くポルト・セグーロ校、フンボルト校、ゲーテ・インステチュート、ドイツ総領事館、ドイツ商工会議所をもってドイツ語・ドイツ文化普及のための協議会を既に二十年も前に設け、いかに有効に普及活動を実施するかの検討を行い、その結果を機能的に実施している。
 例えば何よりもドイツ語・ドイツ文化に精通した教師の養成が必要ということになれば、その教師養成のためにドイツ系企業は膨大な資金(人文研が八二年に行った調査では、この教師養成講座創設運営のためドイツ商工会議所は五年間にわたり二百万ドルの資金を提供していた)を援助していた。
 現在では更に優秀なドイツ語・ドイツ文化教師養成のため、ゲーテ内により高度の養成コースを設けたり、南大河州リオ・シーノ大学内には大学に働きかけ、ドイツ語教師養成学科までも設置している。なお同協議会の決定事項は地域代表の手を経て、各地の学校において実施させている。
 人文研は二〇〇一年に、国際交流基金日本語センターからの依頼で調査を行った。その結果に基づき、日系社会も総合的、有機的な日本語普及のため、ドイツ系にならって日語関係者の協議会を設置することの必要性を提言した。
 それにより、〇二年より日語普及センター、アリアンサ日伯文化連盟、USP日本文化研究所、CEL・CELEN(サンパウロ州やパラナ州立校外国語センター)、日本語講座のある私立コレジオ、日本語講座のある大学、国際交流基金、JICA、総領事館、日本商工会議所の代表を集め、同基金日本語センター内に協議会が設置された。これまで個々に何の連絡もなく、バラバラに日本語教育を行っていたが、相互の連携により、有機的、機能的に計ることとなった。
 いずれ学園構想が具体化してくれば、同協議会の教育内容のありかたについての意見も大いに生かされることとなろう。この協議会には既存の日語校代表も参加しているところから、新生日伯学園が同協議会をも包含し、検討された有効な日語・日本文化普及事項を既存日語校にまで敷衍して行けば、既存の地域日語校も大きく裨益されることとなる。
 いま、百周年を目がけて、あちこちで記念事業としての日伯学園建設構想が伝えられているが、各地域に立派なそれ出来ることはまことに望ましいことだ。これらの学園の代表も参加した協議会が種々検討決定した事項を、新生日伯学園がまず実験的に試み、その結果を傘下参加校に敷衍させて行く、というモデル校的学園を目指すべきである。
 さらに、前述の梅棹忠夫館長は同基調講演の中で「文化的伝統の継承というものは、人間から人間への伝達によって可能となるものである。しかし、逆にコミュニケーションの断絶は文化の断絶をもたらす。もし、日本文化が世界に何ごとかを貢献できる可能性をもつならば、われわれ、日本文化の系譜をひくものたちの間で、常に文化連帯をこそ、はかって行かなければならない」と述べている。
 即ち、ブラジル社会に日本文化の良きものをもって貢献するにしても、常にオリージェンとしての日本に太いパイプをもち、断絶のないよう連帯をはかる必要がある。その意味において、日本側にもこの日伯学園創設の意義を十分に理解してもらった上で、連帯の太いパイプを結んで行くことに協力してもらわなければならない。日本側の十分な協力を求めることもまた重要なことである。   (宮尾進、つづく)

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■特別寄稿=連載(3)=日伯学園建設こそ=100周年事業の本命=コロニアの現状分析と意義

■特別寄稿=連載(2)=日伯学園建設こそ=100周年事業の本命=コロニアの現状分析と意義

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