JICA青年ボランティア リレーエッセイ=最前線から=連載(20)=中村茂生=バストス日系文化体育協会=百周年に移民展を

2005年12月01日(木)

 私のように、日本からの一時的滞在者で、コロニア全体の流れといったものへの認識を欠き、かつ移民史に関心をもつ者にとって、移民百周年の柱のひとつは、当然移民史の総括だろうと思ってしまう。
 そんな前提にたって史料館勤めをしていると、きっと二〇〇八年には大々的な企画展がブラジル各地の史料館合同で開催され、日本の史料館や博物館、ひょっとすると全米日系博物館など世界各地の施設でもブラジル移民百周年を祝い、評価する巡回展が開かれるのだろうかという素朴な思い込みが生まれる。
 そうなればきっと、歴史研究者も次々とブラジル日本人移民史に参入し、移民史研究は進み、ブラジルの日系人は自分たちをアイデンティファイするに足る確固たる「歴史」を手に入れるのだろう、と想像が膨らみ、できれば自分もその研究にかかわっていたいものだという気持ちになってくる。
 しかし私が聞いた範囲では、今のところそういった計画はどこにもないらしい。史料館などで企画展を開催する場合には、最低二年は準備に費やすから、今のところないとしたら、なかなか実現は難しいと考えるのが普通だろう。
 日本語のものに限られるが、こちらに来て歴史書や研究論文を漁るようになって、その数の案外な少なさに驚いた。歴史研究というのは、ある程度時間を経た対象でなければ手を出しにくいのは確かだが、それにしても少なすぎるように思われる。
 以前新聞でも報じられた、日本の歴史教科書にブラジル移民の記述がほとんどないという問題なども、研究蓄積が不十分であることと関連があるはずだ。ブラジル日系社会の実証的な「歴史」が書き残され、その存在を日本でも認知されることに意味があるとすれば、地味ではあるが移民史研究をすすめることはひとつの有効な方法ではないだろうか。
 日本を含めた各地の史料館でブラジル移民展が開催されることになれば、まず準備段階で資料収集と研究が進むはずである。その研究成果をもとに、例えば移民百年史をまとめることも考えられるだろう。もちろんその展示を通してブラジル移民史に多くのひとが関心を持つ。よそ者の勝手な思いであるが、そういった企画がない事がいかにも残念であった。
 さあ、ささやかでもバストス史料館だけで何か考えようかと思っていたとき、日本人移民関係の史料館会議が今月十八日に開かれ、各地の史料館関係者と親しく話をする機会があった。
 試しにこの話をしたら、心強いことに同じような企画を腹案としてもった人もあったし、みなさんから趣旨への賛同は得られた。おそらくもう一息、どこかから後押しでもあれば、たとえ規模は小さくても実現するのではないかという気がしてきた。
 あれよあれよという間に私の任期はもうあと一年と少しになってしまった。わずかだろうが、私にできることがあれば是非お手伝いしたいと思っている。
   ◎   ◎
【職種】史料館学芸員
【出身地】高知県高知市
【年齢】40歳

 ◇JICA青年ボランティア リレーエッセイ◇

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