デカセギ犯罪増、海外逃亡も「ガランチード」=日系人がなぜ?=意見、分析を識者らに聞く

2005年12月27日(火)

 【既報関連】「ジャポネース・ガランチード(信用できる日本人)」という定評をブラジルで築いてきた日系人は、なぜ日本では犯罪を多発させているのか?――。既報の通り、警察庁統計によれば、昨年一年間で七十一人が日本で警察から追われ国外逃亡し、うち四十七人は帰伯したと推定される。〇〇年から五年間の国外逃亡ブラジル人を合計すればなんと二百三十一人にもなり、明らかに増加傾向。二~四世を中心としたデカセギ世代の日本での現実に、日系社会の多くが首を傾げる。これに対する分析や意見を聞いてみた。
 「ブラジル国内で話題になるような犯罪を起こす日系人は、こちらにはまずいません」。中島エドゥアルドさん(46、二世、文協事務局長)はそう前置きし、「なぜ日本にいっている人たちが犯罪を起こすのかほんとに不思議ですね」と疑問符を投げる。
 「逃げてきた人たちは、こっちで何をしてるんでしょうね。そういう人ならブラジルに帰ってきても変なことをするのが普通なんでしょうけど・・・」。さらに付け加える。「同じ日系人がブラジルではやらないことを考えれば、むしろ、日本という国の何かに関係があるのかもしれないですね」との可能性を指摘する。「そのへん、専門家がもっと研究する余地があるんじゃないでしょうか」。
 ブラジル日本移民史料館の大井セーリア館長(55、三世、ジャーナリスト)は、「日本では周りに家族や親戚がいないので無責任な行動がとりやすくなるからでは」と分析する。
 「日本へ行くのはお金を稼ぐため。目的がハッキリしている分、それ以外の倫理や道徳が薄くなる。過大な期待を抱いて日本へ行っても、実際はたいして稼げない。なにか困ったときにジェイチーニョ・ブラジレイロ(ブラジル的な便法)でやろうとしても、あっちではキチンとしなくてはならない。徐々にヘボウタード(反抗的)になり、ストレスが溜まって、こっちではやらないような暴力に走るのかも」。
 これらに基底にあるものとして、「デカセギに行く以前に、こちらの家庭に問題があって、日本へ逃げるように行って新しい家庭を作るような人もかなりいる。ある意味、あちらの方が、国内よりもモラルがない状態になっているのかもしれない」と指摘した。
 デカセギの帰伯適応障害やカルチャーショックによる精神病に詳しい、中川デシオ精神科医(54、二世)によれば「チャンスの問題」ではないかという。どんな社会でも何%かは犯罪を起こす可能性のある人、反社会的行動をとる人がいるが、母国であれば社会自体がその傾向に対して抑止力を持っており、あらわすチャンスがなく、通常は抑えられている。
 それが、日本のように別の社会へ行くと、その抑止力が働かず、チャンスが生まれ犯罪につながってしますという。「そのような行為に走る人の何%かは精神病の人もいる。医者にかかっておらず、日本へ行って悪化し、自分の気持ちが抑えられなくなって殺してしまったりする」。
 中川医師は北米や欧州のブラジル人労働者の調査をした。マイアミ在住のあるブラジル人はディズニーランドのすぐ横で五年間も働いてきたが、一回も入場して遊んだことがないと言っていたとの例を出す。「日本のデカセギはもちろん、ほとんどの国外就労者はそのような真面目な人たちです」。
 イタペチニンガで日本語学校を経営する尾崎守さん(73、長崎出身)は、「このような人が逃げていてまかり通ることを許すのは良くない」という。「このような痛ましい事件に対して、文協などが積極的に対策を練るべき」と主張する。小野忠司さん(71、福岡出身)も、「犯罪者引渡し協定を結ぶ必要があるのではないだろうか」と提案する。
 たった一日で地球の反対側まで働きにいけるようになった反面、国境を越えて逃亡することも簡単になった。身体は簡単に移動できても、心は祖国に囚われる。二世以降にとって先祖の国とはいえ、日本は異国だ。未知の自分が現れるのだろうか――。それに対して、日系社会側では何ができるのか。
 国際的労働力移動の時代にそくした統合的な対策、制度が必要とされていると言えないだろうか。