コラム 樹海

 明けましておめでとうございます▼昨年末、県連の忘年会会場に、移民、特に旧移民にとって懐かしくもホロ苦い歌が流れた。NHKドラマ「ハルとナツ」でも歌われた「渡伯同胞送別の歌」である。会場に旧移民は僅かしかいないのに、一時、しんとなった▼歌詞の第四節は「南の国やブラジルの未開の富を拓くべき、これぞ雄々しき開拓者」。本紙読者の多くは、未開の富の開拓は終えた。拓く努力はそれぞれがした。今後は、自らを拓くよう心掛けたい、とこの部分を新年早々借用した▼歌が日本国内で歌われたのは一九三〇年前後である。国内には、失職して帰郷する者、日に三十~六十人が東海道を歩く。自殺者急増一万三千九百四十三人(三〇年)と記録にある▼二九年、日本政府は拓務省を設置、国策で移民送り出しに取り組んだ。標的はブラジル。歌い出し部分の「行け行け同胞海越えて」だった。移民送り出し機関は「この歌を皆様の晴れの船出に当たって声高く合唱しましょう」と宣伝した▼移民は歌を聴いて発奮したのではない。出稼ぎを決めてから、どこかで耳にし、鼓舞された。第五節に「万里果て無き大陸や何れが宝庫ならざらん、君成功の日近し」とある。何をもって成功と見るかは個人差があるだろうが、大半はブラジルでの生活と歌とのギャップを痛感したはずだ▼今、耕地にはおらず、コンクリート・ジャングルに住んでいるが、なお、「自身を拓くこと」は可能だ。年齢を超えてそう生きたい。(神)

06/01/04