今年の大統領選挙をこう考える=ソール・ナッセンテ人材銀行代表=赤嶺 尚由=連載第5回

2006年3月3日(金)

 IFMへの一五〇億ドルの負債を前倒しで一括返済したこと、レアル高とドル安と言う逆風が吹く中で、何とか輸出の好調に支えられて四五〇億ドルを目前とした史上最高の貿易黒字を達成した他に好調な経常収支を計上したこと、原油の国際相場が急騰している中で、石油の自給率を達成したこと、中南米諸国で社会主義を標榜する政権が次々誕生していること等、ルーラ大統領の再選続投への戦いを後押ししてくれそうなプラス材料にも事欠きません。
 ただ、これらを考慮に入れても、尚、大統領選挙戦自体が大変苦しく厳しくなりそうなのは、特に政治、行政面で目立つ得点が挙げられなかったからに違いありません。政治面でのもう一つの気がかりな要素は、今回の不正汚職事件に直接ルーラ大統領を巻き込むような更なる新事実が現れないかどうかということです。
 一九八九年の大統領選挙に初出馬した頃からルーラ候補に影のように寄り添い、現在、零細企業支援に関連する公的機関のトップとして、活躍してきている当時からのある有力な日系の金庫番、また、二〇〇二年の選挙PRを担当して高額の報酬を貰い、外国の口座にそのまま隠していると伝えられる同じく高名な選挙PR担当者の身辺にもしこれ以上、追及の手が伸びるようなことがあれば、これまで表沙汰にならなかった新事実が出てくる可能性もあります。
 そういった状況の中で、ジルセウ官房長官が辞任し、グシケン政府広報戦略担当大臣も半分政府を去った今、今年の選挙の指揮を誰が取るのか、政府公社や年金基金や鉄鋼業界最大手と評される有力メーカー以下、これまで献金容疑で既に名前の挙がった民間企業もすっかり用心してしまっているので、更に誰が選挙資金集めの役割を担当するかが重要課題になっています。
 ごく最近、ブラジリアのトルト宮辺りで、辞任後初めてジルセウ前官房長官がルーラ大統領と秘密裏に会談し、四月までに、パロッシ大蔵大臣を選挙参謀役に転出させ、後任の蔵相にムリロ・ポルトガル大蔵次官を起用し、併せて高金利引締め政策のイメージが染み付いてしまい、更に、政界進出の意向が強いと伝えられるメイレーレス中銀総裁もついでに更迭する点に就いて、意見の一致を見たそうです。とりわけ、パロッシ蔵相の交代説は、日増しに高まってきているといった風説が流れてきている模様です。
 PT(Partido Dos Trabalhadores=労働者たちの政党)と名乗る以上、常に庶民の味方であるべき筈なのに、時の政権と政権与党を巻き込んだ超大型の不正汚職事件の発生を許し、政権そのものを私物化してしまっているのではないか、自分たちだけのために暮らし易い国造りをしているのではないか、といった鋭い批判がマスコミを中心に巻き起こりました。

■今年の大統領選挙をこう考える=赤嶺 尚由(ソール・ナッセンテ人材銀行代表)=連載第1回

■今年の大統領選挙をこう考える=ソールナッセンテ人材銀行代表=赤嶺 尚由=連載第2回

■今年の大統領選挙をこう考える=ソール・ナッセンテ人材銀行代表=赤嶺 尚由=連載第3回

■今年の大統領選挙をこう考える=ソール・ナッセンテ人材銀行代表=赤嶺 尚由=連載第4回