選挙予測記事の連載を終えて=ソール・ナッセンテ人材銀行代表=赤嶺 尚由=連載(下)

2006年3月17日(金)

「信用回復には時間かかる」

 今年十月一日に行われる大統領選挙に出馬する野党陣営の中核政党であるPSDBの候補には、ジェラルド・アウキミン現サンパウロ州知事が最終的に決まり、再選続投を目指す与党PT陣営のルーラ現大統領と対決することになった。本命視されていたセーラ市長は、州知事候補に回して処遇し、十六年間も守っててきた知事の座を尚死守する構想も出掛かっている。
 二〇〇二年の大統領選挙に立候補して善戦したセーラ現サンパウロ市長が昨年末まで、世論調査上の支持率を終始一貫してリードしてきていたため、同市長を候補に推す声が圧倒的強かったが、最後まで、野党陣営の候補の座を諦めなかったアウキミン知事の粘り腰の勝利と、政界の消息筋では取り沙汰している。
 アウキミン候補は、今年まだ五十三歳の若さ、年齢が確か五十歳になったばかりのルーラ大統領とは、どっこい、どっこいだ。一般家庭の食卓に欠かせないあの蔬菜類の一つ〈シュシュー〉が愛称である。ルーラ候補も、この二、三ヵ月で一五キロの減量に成功、選挙戦に向けスリムになっている。
 アウキミン知事は、策謀や駆け引きや、浮沈の激しいこの国の政界にあって、比較的順風満帆で頭角を現してきた幸運な政治家でもある。サンパウロ州のリオ街道脇にあるピンダモニャンガーバ出身で、大学では医学を専攻したが、それを職業にしたことはなく、若くして政界入りを果たし、めぼしいところでは、同市の市長、州議員、連邦下院議員を務めた経験がある。
 九八年に時のマーリオ・コーヴァス知事に帯同する副知事候補に抜擢され、頭角を現した。政治家として、そう華々しい活躍もないが、個性の強過ぎ、ややもすると傲慢な感じもするセーラ現サンパウロ市長と比較し、政敵も少ない。PSDBのトリウンヴィラット(三頭政治)と陰口を叩かれたフェルナンド・エンリッケ前大統領、タッソ現PSDB党首、アエシオ現ミナス州知事らの実力者の支持が最後には奏功した模様である。
 〈野党PSDBの大統領候補にアウキミン知事決定〉のニュースは、瞬く間に政界を駆け巡ったが、それを耳にして、いち早く祝杯を挙げたくなった政治家がいるとすれば、何よりも今年の大統領選挙で悲願として来ているルーラ現大統領であろう。世論調査上、セーラ候補であれば、手強すぎるし、アウキミン候補なら、場合によっては、第一次投票(予選)の段階で絶対過半数(全有効投票総数の五十%プラス一票)を獲得して、早々と勝敗を決することも可能だとの予想が既に出ているからだ。
 この国は、世界的に見ても、珍しい位の天然資源の豊富、気候温暖、人種差別などのない平和な雰囲気、全てにまず恵まれている。しかし、恵まれている割には、いつも政治面か経済面で混沌とした状況が続いてきている。今年の大統領選挙で、誰が選ばれても、尚しばらくこのような状態が続いていくものと予想される。当面の切迫した国内の貧困問題を対策するには、PIB(国内総生産)を絶えず四、五%の水準を達成し、雇用の促進、所得の配分を推進していく必要が指摘されているが、昨年の公式PIBは、その半分位の二・三〇%に留まった。
 そこで、長い連載を終えるに当たって、読者の皆さんに簡単なピアーダを披露させていただきたい。ちょうど雲の遥か上で円卓会議を開いていた神々に対して、好奇心の強い国民の誰かが「どうしてブラジルだけ何年経っても、ゴタゴタ、試行錯誤ばかり繰り返していて、前進しないんですか」と聞いたところ、神々の中の一人がちょうど下界のブラジルの方角を指さしながら、「全てに恵みを与えたら、不公平になるので、そこには、ブラジル人を住まわせるようにしたのだ」とお答えになったそうです。

■今年の大統領選挙をこう考える=赤嶺 尚由(ソール・ナッセンテ人材銀行代表)=連載第1回

■今年の大統領選挙をこう考える=ソールナッセンテ人材銀行代表=赤嶺 尚由=連載第2回

■今年の大統領選挙をこう考える=ソール・ナッセンテ人材銀行代表=赤嶺 尚由=連載第3回

■今年の大統領選挙をこう考える=ソール・ナッセンテ人材銀行代表=赤嶺 尚由=連載第4回

■今年の大統領選挙をこう考える=ソール・ナッセンテ人材銀行代表=赤嶺 尚由=連載第5回

■今年の大統領選挙をこう考える=ソール・ナッセンテ人材銀行代表=赤嶺 尚由=連載第6回

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■選挙予測記事の連載を終えて=ソール・ナッセンテ人材銀行代表=赤嶺 尚由=連載(中)